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スポーツ、世界への突破力

欧米に遅れたプロスポーツ、成長の鍵は価値の見極めと人材

「"SPORTS X"Conference 2017」報告(3)

2018/04/04 05:00

久我 智也=ライター

2019年から2021年にかけて、3年連続でメガスポーツイベントが開催される日本は、2025年までにスポーツ産業の市場規模を15兆円にまで拡大していくことを目指している。野球やサッカー、ラグビーといった、いわゆる「メジャースポーツ」は、その目標達成のためにどのように事業戦略を考えていかなくてはならないのだろうか。

 2017年7月27~28日に開催された、スポーツ産業関連のカンファレンス「KEIO SDM "SPORTS X"Conference 2017」(主催:慶応義塾大学大学院SDM研究科)で、スポーツマーケティングラボラトリー・代表取締役の荒木重雄氏が登壇し、「日本のスポーツビジネス戦略を考える~スポーツの成長産業化のカギを握るメジャースポーツの事業戦略を考える~」と題して講演を行った。その要旨を前後編に渡って談話形式でお伝えする。

日本と欧米の間にある、プロスポーツリーグ国際戦略の差

 日本のスポーツビジネス戦略を考える上では、国内スポーツ市場の現在地を知り、そして日本特有のモデルを理解しておく必要があります。日本の現在のスポーツ産業の市場規模は約5.5兆円で、GDP(国内総生産)に占める割合はわずか1.1%に過ぎません。

 米国は54.8兆円で同比率が2.7%、中国は28.8兆円で2.3%という数字ですので、スポーツ産業先進国に比べるとだいぶ劣ってしまっています。ただ、昔から日本のスポーツ産業が小さかったかというと、そういうわけではありません。例えば1997年頃まで、日本のプロ野球の市場規模は、英国のサッカーリーグ・プレミアリーグなどを上回っていました。しかしそれから約20年が経ち、今では大きく水を開けられています。

 なぜ、今では大きな差がついているのか。1つには、プロスポーツリーグにおける世界戦略の違いに要因があるのだと思います。米国の4大スポーツリーグはいずれも国内のみで完結するドメスティックなマーケットですが、世界中から優秀なアスリートを集めているため、国内リーグで優勝したチームが世界一である、と定義づけています。

 欧州の場合、例えば高い人気を誇るサッカーは、各国の優勝チームを決めると同時にチャンピオンズリーグという世界一のクラブを決定する大会を行っています。つまり、欧米ともに「クラブ」が世界一になるわけであり、国内戦略においても、国際戦略においても、リーグやクラブにお金が入る仕組みになっています。

 翻って日本では、世界一を決める戦いに臨むのはクラブではなく代表チームになるわけです。代表チームを管轄するのはナショナルフェデレーション(NF)ですので、どれだけ上に行ったとしても国内リーグやクラブには興行収入が入らない仕組みになっています。こうしたところで、欧米と日本における国際戦略の違いが見て取れると思います。

 欧米のようにクラブと世界がつながっていると、クラブとしてはいい選手を獲得するために稼がなくてはなりません。そうなると、クラブは投機財の側面も持つことになります。例えば米国のMLBでは、20年の間で29回ものチーム買収が行われています。

 例えばロサンゼルス・ドジャースなどは、1998年に3億1100万ドルで、2004年に4億3000万ドルで、2012年には20億ドルで売却されているのです。日本の場合、稼ぐためにスポーツクラブ買収するというよりも、元々のオーナーがクラブを維持できなくなり、売却せざるをえないという状況からオーナーが変わることがほとんどです。まだまだ、米国などとは真逆の状況にあるのは残念にも感じます。

スポーツマーケティングラボラトリー 代表取締役の荒木重雄氏。日本IBM、欧米系通信会社日本法人の要職などを歴任後、2005年千葉ロッテマリーンズに入社、執行役員事業本部長として球団の経営改革に従事。2007年パシフィックリーグマーケティングの設立に伴い、同社の執行役員、取締役を歴任。2009年スポーツマーケティングラボラトリー(SPOLABo)を設立。2013年4月から2017年3月まで、日本野球機構(NPB)特別参与、NPBエンタープライズ執行役員として、野球日本代表・侍ジャパンの事業戦略、デジタル戦略を担当。2017年7月より全日本野球協会(BFJ)に理事に就任。現在に至る
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日本のプロスポーツ興行を牽引してきたプロ野球と、NFL、MLB、プレミアリーグの市場規模の推移図。1995年頃まではMLBとも大差はなく、プレミアリーグよりも市場規模は上だったが、90年代後半以降、その差は拡大の一途をたどっている
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日米欧のプロスポーツリーグの国際戦略を図示化したスライド。サッカーの場合はFIFAクラブワールドカップのようにクラブ単位で世界に通じる道があるが、多くの場合、国内リーグで完結するにとどまっている
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