IoTプロジェクトとは、いわば“旅”である――。そう語るのは、実際にスマートウオッチ(コネクテッドウオッチ)とその関連サービスを世に送り出した経験を持つ野々上 仁氏(ヴェルト 代表取締役 CEO)だ。このほど同氏は、自身の経験をまとめた書籍『サービスのためのIoTプロダクトのつくり方』を上梓した。

 その野々上氏が、IoTの本質を探究すべく、さまざまな分野の第一人者と語り合う新たな“IoTジャーニー”に出発する。最初の対談相手は、ヴェルトが2017年末の発売に向けて開発中のコネクテッドウオッチ「VELDT LUXTURE」をデザインした田子學氏(エムテド代表取締役/アートディレクター、デザイナー)である。(進行・構成は高野 敦)

――野々上さんが「VELDT LUXTURE」のデザインを田子さんにお願いした経緯から教えていただけますか。

野々上 仁(ののがみ・じん)
ヴェルト 代表取締役 CEO。1992年に京都大学卒業後、三菱化成(現・三菱化学)に入社。配属された光ディスク部門にて生産管理・新規営業や製品企画を担当。インターネットの世界に魅了され1996年にサン・マイクロシステムズに入社。2010年のオラクルによる買収後は、日本オラクルにて執行役員およびバイスプレジデントとしてハードウエアの事業部門を指揮。2012年8月、次なるネットワークコンピューティングの世界に挑戦するため、ヴェルトを設立。2014年には「アップルウオッチ」に先駆けて日本発のスマートウオッチを発売。現在に至る。(写真:加藤 康)

野々上 そうですね。そもそもIoTというのは、プロダクトを売ったら終わりという一過性のものじゃなく、将来にわたってサービスがどんどん追加されていくものだと思っています。だから、田子さんの『デザインマネジメント』を読ませていただいたとき、デザインをその瞬間だけではなく、経営の長いスパンの中で考えていくというところに非常に共感したんですね。

 日本の経営者は、「デザインは自分が考えることじゃない」という人が多いんですけど、それは根本的に違うんじゃないと思っています。日本の企業は、テクノロジーはすごく尊重していて、テクノロジーありきで考えがちですが、テクノロジーで勝ってビジネスで負けるケースが結構多い。なぜなら、デザインによるユーザーへのアプローチというのがまさにミッシングリンクという感じで欠けているわけです。

 ヴェルトは、テクノロジーの革新もやりますけど、それ以上にテクノロジーとの付き合い方を革新するということをテーマにやっています。そういう意味で、デザインは我々の中で必須の要素です。マネジメントの中にデザインが当たり前のように入ってきます。

田子學(たご・まなぶ)
東芝デザインセンター、リアル・フリート(現・amadana)を経て、エムテドを起業。幅広い産業分野のデザインマネジメントに従事。「デザインを社会システムにする」をモットーに、総合的戦略によってコンセプトメークからブランドの確立までを視野に入れてデザインしている。GOOD DESIGN AWARD、Red Dot Design Award、iF Product Design Award、International Design Excellence Awardsなど世界のデザイン賞受賞作品多数。(写真:加藤 康)

田子 最初に野々上さんと会ったとき、ヴェルトの存在は知っていたんですが、どういう人がやっているかは知りませんでした(笑)。そこでこんなことをやっていますと説明したら、野々上さんが興味を持ってくださって、何か一緒にやれたらいいねというところから声を掛けていただいた感じですね。

 そのときにすごく嬉しかったのは、『デザインマネジメント』で書いたことを野々上さんがすごく理解していて。野々上さんは海外の経験がありますよね。外から日本を見たことがあると、野々上さんが先ほど仰ったように、日本のブランドが負ける仕組みがよく分かるんです。『デザインマネジメント』にも書きましたが、(スウェーデンの家電メーカーの)Electrolux社に行って衝撃を受けたのは、デザインがものを語り、ブランドを語り、そしてビジョンを語るというところでした。

 ビジョンというのは要するに経営方針なので、そこをデザインがちゃんと握っているのはすごいことですし、そこが日本は欠けていると思ったんですね。野々上さんは起業してヴェルトのブランドを確固たるものにしたいという思いが明快だったので、デザインの依頼を受けたときに「ぜひやらせてください」と。