実は奥が深いサイコロの世界

 斎藤社長が世界最小のサイコロを自社工場でつくることを決意した原点が2004年4月に発表したチタン合金削り出しのサイコロです。高精度加工で造られたサイコロはチタン削り出しということもあり、発表した次の週にはインターネット上で大きな反響を呼び、高額(1セット約2万円)であるにもかかわらず数十セットも一度に注文が入るというほどでした。しかし、そのとき「高精度加工技術で造られたサイコロは、目の出る確率は均等なのか?」という問い合わせがあったのです。

 それを受け、今の製造技術で世界一均等に目の出る確率を持ったサイコロを作るぞ!という決意に至りました。そうして1ヵ月後に生まれたのが限りなく重心が中心にある12mm角のサイコロです。あまり知られていませんが、実は普通のサイコロはそれぞれの目が出る確率は1/6ではありません。わずかな確率の違いではありますが、最も出やすい目は実は「5」なのです。

 その理由は、「5」の裏側が「2」だからです。「5」の目ではくぼみを5カ所掘っているのに対し、「2」の目では2カ所しか掘っていません。従って重量がアンバランスになり、目の出方に偏りが生じます。このアンバランスさは「1」(他の数字よりも目のくぼみが大きく深い)と「6」、「3」と「4」の組み合わせよりも大きくなるため、「5」の出る確率が最も高くなるのです。

 これに対し入曽精密の完全重心のサイコロは、3D-CADでデザインし、立方体を6つの四角錘に分割して考えた場合、6つの底面に彫られる目の形状を調整して、それぞれ四角錘の重量が均等になるようにしてあるのです。また、転がるサイコロが止まる瞬間、面形状の違い(質量配分)により目の出る確率に影響が出るときがあります。全てのサイコロの目の削り量が、見えにくいほど最小にしてある理由がそこにあります(例えば、2の目の削り深さは0.006mm、6の目は0.002mm)。

 このサイコロは、どの目も同じ確率で出る唯一のサイコロとして、高等学校の数学の教科書でも取り上げられました。

図1 入曽精密が造った完全重心のサイコロ(2004年5月発表)
左が設計用の3Dモデル。重心点を頂点とする6個の四角錐体の質量が完全に同じになるようにした。3D-CADの特性と精緻な加工技術から生まれた。右がチタン合金の削り出しで作成したサイコロ。写真:入曽精密
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