がん超早期発見、「唾液」と「機械学習」で挑む

2015/08/19 00:00
大下 淳一=日経デジタルヘルス

 JR東京駅で新幹線のホームに向かうビジネスパーソン。立ち寄った売店で唾液を採取する簡単な検査を受けた後、のぞみ号の指定席に身を沈めてひと眠りした。新大阪駅に着くと、最寄りの売店に立ち寄り、乗車前に受けた検査の結果を受け取った。小さな紙に記された検査結果にドキリとする。「大腸がんの兆候が認められます。医療機関の受診を強くお勧めします」とある…。

 日々の暮らしの中で、がんの兆候をこうした簡便な検査でとらえる――。機械学習の手法でこれに挑もうとしているのが、福島県会津若松市に拠点を置くベンチャー、Eyes, JAPANだ。信州大学と共同で実施する「唾液マーカーによる非侵襲・迅速・安価ながん兆候の検出技術の開発」が2015年7月、福島県の復興事業「第6次ふくしま医療福祉機器開発事業費補助金」に採択された(関連サイト)。

 この開発プロジェクトの構想について、Eyes, JAPAN 代表取締役社長の山寺純氏に聞いた。同氏は2015年9月2日開催の「次世代がん診断サミット2015」(主催:日経デジタルヘルス)に登壇し、「機械学習・人工知能技術から迫るがんの超早期発見」と題して講演する。

(聞き手は大下 淳一、小谷 卓也=日経デジタルヘルス)

Eyes, JAPAN 代表取締役社長の山寺純氏
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――プロジェクトの概要について教えてください。

 唾液中の「サイトカイン」と呼ばれる物質の推移をセンサーで測るとともに、機械学習を使って、さまざまな種類のがんの兆候を超早期にとらえることを目指します。街中でショッピングするのと併せて唾液を採取すると、数十分~数時間後には結果が出て、必要な場合には医療機関の受診を勧める。開発した技術をそんなサービスに実装できないかと考えています。早期発見だけでなく、再発のスクリーニングにも役立てられるのではないかと思います。

 サイトカインはストレスとの関係が深いとされているのですが、がんとの関係についても20万本近くの学術論文が存在します。今回のプロジェクトでは、この膨大な論文からがんの兆候をとらえるのに必要な情報を抽出する検索エンジンを開発します。サイトカインがこんな推移を示す人はこんながんを患っている可能性が高いといった形で、論文を“可視化”する。こうした相関図(マップ)を作ることができれば、そこに被験者の検査結果をマッチングすればいいわけです。その際に必要な論文の重みづけに、機械学習の手法を利用します。その後は、判定実績を重ねていくほど、その精度は高まっていきます。

 今回の手法では、数値情報をベースにがんの兆候をとらえるため、高い判定精度が得られると考えています。“自動運転”の難しさが示すように、画像情報から何らかの判定を下すのは一般に難しい。数値情報はより扱いやすく、判定精度も高めやすいのです。

 プロジェクトでは検索エンジンの開発を我々が担当し、センサーの開発は信州大学が担当します。従来に比べて簡便かつ安価に、サイトカインの推移を測れる。そんなセンサー技術と機械学習を組み合わせる点が、我々の取り組みの特徴といえます。

――遺伝子検査サービスのように、誰もが日常的に疾病リスクを手軽に検査できる。そんな姿を目指しているわけですね。

 がんの検査は現状、1年に1回といった頻度で医療機関で受けているわけですよね。検査を日常的にマメに受けられるようになれば、より早期にがんを見つけられる可能性がある。例えば、新幹線に乗っている間に検査結果が出るようなサービスがあれば、便利ですよね。技術開発だけで終わらせず、こうした具体的なサービスに落とし込むことを狙います。

 遺伝子検査サービスでは、主に先天的な体質や疾病のリスクを可視化します。これに対して我々は、後天的な要因が効くサイトカインを対象にする。その点では、遺伝子検査と我々が開発する検査の結果をマッチングすることで、新しい知見が得られるかもしれません。

――今後、どのようなスケジュールで開発を進めますか。

 信州大学と協力し、開発した手法の有効性を2015年内に試したいと思います。今回の手法は、スーパーコンピューターをがんがん回すようなものではありません。身近なクラウドの基盤を生かし、“いいモデル”を早く作った者が勝つ世界です。そこに膨大なデータが集まってくるのですから。我々としては優れたモデルをいち早く開発し、先行逃げ切りを目指します。