メガソーラーの番人、先進的O&Mの現場

親子のヤギ5頭が除草を担い、人気者に

設置高1.5m、井戸を併設して水飲み場も整える

2015/07/01 00:00
金子 憲治=日経BPクリーンテック研究所

 イビデンの神戸事業場は、JR大垣駅から北にクルマで20分ほどの岐阜県神戸町の郊外にある(図1)。周囲は田畑だが、徒歩圏に駅があり、住宅や学校も近い。2014年12月、同事業場に隣接した遊休地に出力250kWの太陽光発電所が稼働した。イビデンの子会社で、エネルギーや環境プラント関連設備を手掛けるイビデンエンジニアリング(岐阜県大垣市)が建設・運営し、固定価格買取制度で売電している。

図1●イビデンの神戸事業場(出所:イビデンエンジニアリング)
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 同社は、2015年5月12日から6月30日までの約1カ月半、ヤギ5頭をこの発電所の約1700m2の敷地内に放牧した(図2)。最年長の「マリ」(雌・5歳)の子供と孫という親子3代の群れで、雌4頭、雄1頭になる。マリ以外は2~3歳だ(図3)。

図2●5月12日からヤギを放牧した(出所:イビデンエンジニアリング)
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図3●外見上は、ほぼ同じ大きさだが、親子3代の群れで、雌4頭、雄1頭になる(出所:イビデンエンジニアリング)
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 放牧して約3週間後、6月初旬に発電所を見学した。「人懐っこくて、敷地に入ると、ヤギの方から寄ってくることも多いですよ」。イビデンエンジニアリング・電設事業部の水本秀三専務・事業部長に、こう言われつつ案内されて発電所の中に入った。

井戸を掘って、ヤギ用の水を確保

 敷地内は、ヤギによる除草がかなり進んでいて、目立った背の高い雑草はほとんどない。放牧する前の敷地の様子を写真で見ると、細長い葉のイネ科の雑草が一面に生え、なかには茎のしっかりした背の高い草もあり、茎の先がパネルを取り付けた架台に届いている植物もあった(図4)。わずか3週間で、背の高い草の葉はほぼすべて食べられて茎だけが残っており、地表面には茶色の枯草が散らばり、部分的に背の低い草が残っていた(図5)。

図4●ヤギ除草前の雑草の様子(出所:イビデンエンジニアリング)
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図5●ヤギを放牧して、3週間後の雑草の様子(出所:日経BP)
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 入り口を入るとすぐ脇に、ヤギ用の井戸がある(図6)。巡回点検の際、地下水を汲み上げて、飲み水用に容器にいれておくのだという。入り口に近い太陽光パネルの一角には、雨が降ってもヤギが快適に座って休めるよう、パネル下にブルーシートを張り、地面の上にスノコを敷いた。スノコの横には、「鉱塩」と呼ばれる家畜用の塩分・ミネラルの補給剤が置いてある(図7)。

 しかし、周りを見渡しても、ヤギの姿が見えない…

図6●ヤギのために井戸を設置した(出所:日経BP)
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図7●スノコの横には、「鉱塩」と呼ばれる家畜用の塩分・ミネラルの補給剤を置いた(出所:日経BP)
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なぜか、パワコンの周りが好き

図8●PCSを据え付けたコンクリート基礎の上に寝そべるヤギ。糞は全く臭わない(出所:日経BP)
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 「ヤギは、発電所の一番奥に設置したパワーコンディショナー(PCS)の周りかもしれません。なぜか、ヤギはパワコンの近くが好きなのですよ」。こうした説明を聞きながら、奥まで進んでいくと、果たして、ヤギ5頭はPCSを据え付けてあるコンクリート基礎の上に寝そべって、家族全員でくつろいでいた(図8)。

 見学当日は、晴れており、ヤギは、PCS北側の日陰で、直射日光を避けていた。ただ、日を避けるならば、パネルの下でも良いように思えるが、せっかく用意したパネル下のスノコでなく、PCSの周りにいることが多いという。

図9●近隣から親子連れなどが見に来ることも多い(出所:日経BP)
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 「今日はもう、みな休みだね。ヤギさんは全部で何頭いるんかね」

 取材中、孫を自転車に乗せたお祖父さんが、フェンス越しに話かけてきた(図9)。

 「全部で5頭です。雌が4頭に、雄が1頭になります」

 「5頭もいたんだね。よく見にきてるが、2~3頭かと思ってた」

図10●「山羊による除草」を告知する説明書きを掲示している(出所:日経BP)
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 6月に放牧を始めて以来、近隣の親子連れや、子供たちがフェンス越しにヤギを見に来るなど、ヤギ除草は、近隣住民に親しまれる太陽光発電所に貢献している。こうした見学者を想定し、イビデンエンジニアリングでは、発電所入り口付近のフェンスに、「山羊による除草」を告知する説明書きを掲示し、以下3つの注意書きを記している(図10)。

  • 山羊がビックリしますので、大きな音を立てないで下さい。
  • 噛まれますので、エサをあげる時は柵内に手を入れないでください。
  • 山羊の好きな食べ物はタンポポ、クローバーです。

コストは人手による草刈りと同じ

図11●イビデンエンジニアリングの本社(出所:イビデンエンジニアリング)
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図12●アスファルトの上に設置した神戸事業場の太陽光発電所(出所:日経BP)
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図13●美濃加茂市の公園で実施しているヤギ除草(出所:美濃加茂市ホームページ)
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 イビデンエンジニアリングは、イビデングループの事業場など国内14拠点、18カ所に太陽光発電設備を設置してきた(図11)。2014年7月から順次発電を開始しており、すべて完成すれば、18カ所で合計10.3MWの発電容量となる。自社工場の屋根上のほか、遊休地などを活用した野立ての立地もある。

 水本事業部長は、「野立ての場合、除草対策をどうするか。人手で刈ることや家畜の放牧のほか、除草シートやアスファルト舗装、砂利の敷設など、20年間のコストを試算して検討してきた」と言う。その結果、「アスファルトなどで舗装すれば防草効果は高いが、建設コストが高くなる(図12)。家畜の場合、近くに除草用に貸し出しサービスを実施している牧場などがあれば、人手と同等のコストになるとわかった。人手と同じならば、環境性や癒し効果などのプラス面を考慮して家畜を導入する方向で検討し始めた」と言う。

 当初、岐阜県関ヶ原町の町営牧場が、除草用にヤギを貸し出していたため、この牧場から借りることで進めていた。だが、町外への貸し出しが難しいことになった。そこで、他を探していたところ、農業生産法人・フルージック(岐阜県高山市)が「山羊さんの除草隊」と称して、除草用にヤギを貸し出していることを知った。フルージックでは、岐阜県美濃加茂市で、銀杏畑の除草にヤギを活用した「山羊農業」を実践しており、ヤギを飼育していた。そのヤギを公園や里山、工場の緑地などの除草に貸し出していた(図13)。

設置高を1.5mにしてヤギのジャンプに備える

 フルージックは、里山再生に役立てるため、美濃加茂市と岐阜大学と協力し、ヤギの放牧による植生の変化を調査・研究している。イビデンエンジニアリングは昨年7月、ヤギ除草の導入に向けたデータ収集を目的に、フルージックと岐阜大学の協力を得て、ヤギ5頭による除草試験を3週間、実施した。その結果、除草効果を確かめられ、糞の臭いや鳴き声などもほとんど気にならないと分かった。また、従業員や地元住民の「癒し」として一定の効果が確認できた。そこで、神戸事業場の太陽光発電所への本格導入に踏み切った。

図14●電線はできる限り地中に埋設し、露出する部分は保護カバーで覆った(出所:日経BP)
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図15●発電所内を映す監視カメラを設置し、映像を確認できるようした(出所:日経BP)
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 同発電所は、ヤギ除草の導入を前提に設計したため、随所にヤギの放牧への配慮がある。本来、岩場にも生息するヤギは跳躍能力が高い。そのため太陽光パネルの設置高を1.5mも確保し、ヤギが飛び乗らないようにした。また、電線はできる限り地中に埋設し、どうしても露出する部分はカバーで覆った(図14)。

 また、冒頭で紹介したように、井戸と雨避けとスノコ、塩分とミネラル補給用にブロック状の鉱塩を配置した。深さ約40mの井戸を掘り、ヤギの飲み水を汲み上げることにした。定期巡回の際に、容器に飲み水が少ない場合、汲み上げて補充している。

 イビデンエンジニアリングでは、ヤギ除草中、自社社員による巡回の頻度を増やすほか、イビデン神戸事業場の守衛担当者に1日1回の巡回時にヤギの様子を確認するように依頼し、異常があれば、連絡を受ける仕組みにしている。

 また、発電所内を映す監視カメラを設置し、映像を確認できるようしている(図15)。このカメラは、ヤギの様子を見るとともに、ヤギの盗難対策でもある。実は、2014年8月に除草用にフルージックの派遣したヤギがベトナム人に盗まれ食べられるという事件があった。監視カメラを設置することで、盗難を抑止する効果もある。

小水力でもシェアを伸ばす

図16●イビデンの本社ビル(出所:イビデンエンジニアリング)
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図17●イビデンの東横山発電所(出所:イビデンホームページ)
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図18●2014年2月に岐阜県が建設・稼働した出力220kWの「加子母清流発電所」(出所:岐阜県・ホームページ)
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 太陽光発電事業は、イビデングループにとって新事業だが、実は、発電事業そのものは、イビデンにとって祖業になる。同社は大正元年(1912年)に岐阜県揖斐川水系の電源を開発し、揖斐川電力の商号で電力会社として発足した(図16)。その後、電力供給から、自家発電を利用した電気化学工業に転進し、カーバイド、フェロシリコンなどの素材を生産。時代と共に新分野を開拓し、スマートフォンやパソコン向けの電子部品、DPF(ディーゼル車黒煙除去フィルター)などのハイテク製品で事業を拡大してきた。

 いまでも発電所や変電所を持っており、水力発電の出力は26.9MW、ガスタービン発電は23.71MWに達し、総延長42kmの送電線(鉄塔190基)も保有する(図17)。約10MWの太陽光発電所はこうしたイビデングループの発電事業に新たな電源が加わったことになる。イビデンエンジニアリングが、こうした発電事業の建設や管理を担っている。

 太陽光発電に加え、公共による小水力発電にも取り組んでおり、2014年2月に岐阜県が建設・稼働した出力220kWの「加子母清流発電所」(岐阜県中津川市加子母)の工事を担当した(図18)。また、滋賀県の治水ダムとして管理する姉川ダムに出力約830kWの水力発電所を設置・運営する事業でも、イビデンエンジニアリングと山室木材工業(岐阜県米原市)が事業予定者として選定され、2016年7月稼働予定で建設を進めている。

 イビデングループにとって、エネルギー事業は、地域社会とともに、地域の資源を開発するという理念が基本となっている。地域の農業生産法人と連携した太陽光発電所のヤギ除草も、こうした考え方が基礎になっている。