【前回より続く】エンジン出力は,ついに目標の300馬力を達成した。一方,エクステリアのデザインは,南俊叙と今川康雄が最後まで挑戦を続ける。しかし,設計担当者と衝突,最悪の展開に陥ってしまった。

 それからというもの,南が夕日に映えるレジェンドのデッサンを眺めることはなくなっていた。確かに,言い方はまずかった。だが,間違ってはいない。あの挑戦的なデザインは,レジェンドというホンダのフラッグシップに採用して最も輝きを放つ。実現したかった。しかし,今となっては設計部隊の敷居は高い。電話することも行くことも気まずい。見ていると同じことを繰り返しそうな自分が怖くて,南はデッサンをしまい込んでいたのだ。

技術者のプライド

 ある日の夕方,今川と冗談を交わす南。その南のケータイが高らかに鳴る。

「これっすか」

 小指を立てる今川を無視して,南がケータイに出る。

「南さんですか。私は…」

 この声,この名前。口論となったドア周りの設計担当者である。

「例の段差,まだあきらめてませんか」

「当たり前でしょ。デザイナーとしてのプライドがありますから」

「僕にもねぇ,技術者としてのプライドがありますから」

実際のドア
サイドウインドーとピラーに段差がないデザインを実現した。

「はっ?」

「できましたよ」

「何が?」

「段差がなくなりました」

「ホントに? あれほど不可能って言ってたのに」

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