“変形デジカメ”と称されるカシオ計算機の「EXILIM EX-TR100」。誕生のきっかけは、あるデザイナーの悩み。デザイナーと技術者が互いの思いをぶつけ合いながら一つの製品を生み出すプロセスは、新製品開発の参考になる。全6回の開発物語の第2回である。

 遅々として進まない作業に焦っていたある日、長山は発想をガラリと転換し、カメラを要素ごとに分解してみた。すると、最小限必要なのは結局、円形のレンズと四角い液晶ディスプレイだけということに気付く。

液晶ディスプレイが可動式になったが、まだ“塊感”のあるデザイン)
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「そうだ、●と■を組み合わせれば、いいんだ」

 このひらめきには、当時のデザイン業界で起こっていた価値観の変化が大きく影響していた。それまでは、一つの物体から削り出したような“塊感”のある「無垢」なデザインが良しとされてきた。それが、2008年から2009年にかけて、無垢へのアンチテーゼとして、「華奢(きゃしゃ)」なデザインに注目が集まり始めていた。より少ない要素で、強さと機能性を表現するようになりつつあったのだ。

 華奢なデザインを意識した建築物やコンセプト・カー、航空機のシートなどを目にするうちに、「何となくこっちのほうかな、と思うようになった」(長山)。そして、●と■を組み合わせるという発想が生まれたのだった。

 長山たちは早速、発泡スチロールで●と■を作り、それらを爪ようじでつなげてみた。デザイナーが製品をイメージするために採る常とう手段である。

「くるくる回るぞ」

「確かに…。でも、持つ所がないから使いにくそうだね。どうしようか」

 幾つか課題が浮上し、長山らは再びイラストを描き続けることになった。