オンプレミス環境からクラウドへの移行では、既存システムをどこまで改変するかを決める。まずはIaaSに移行し、そこからクラウドネイティブを目指すケースが少なくない。レガシーシステムの解体は、デジタルデカップリング手法で段階的に進めるのが有効だ。

 オンプレミス環境からクラウドへの移行では、移行の目的を明確にするのが第一だ。その上で、自社に適した移行のパターンやロードマップを選ぶ。

クラウド化に求める効果

 クラウドの活用に当たり、まずは現状のIT課題を洗い出し、クラウド化で何を実現したいのかを整理する。クラウド移行に顧客が期待する例を図1に示した。

図1●クラウド化の目的
[画像のクリックで拡大表示]

 調査会社である米IDGの調査によれば、企業の経営層がクラウド化に寄せる期待としては、83%がアジリティ(俊敏性)、76%が拡張性である。クラウドの特性を考えれば、どちらも享受しやすいものといえる。一方で、クラウド化の効果を一番可視化しやすいのが「コスト削減」だ。一口にコストといってもインフラやソフトウエアライセンス、運用やアプリの維持、改修など多岐にわたるが、最初に挙げられるのがインフラコストの削減だろう。

 オンプレミス環境では数カ月といった期間をかけて予算を確保してサーバーや機器を調達する必要があるが、クラウドであればマネジメントコンソール上で数回クリックするだけで必要なリソースが手に入る。

 クラウド移行の効果として目につきやすく、事例も多いのが、オンプレミス環境で稼働中のサーバーとOSを単純にクラウドに移行してコスト削減を図るケース。ただし、実際にはアプリやデータの移行費用が予想以上にかかるので、ダウンサイジングによりCPUの数やメモリー容量を最適化したり、商用ライセンスをオープンソースソフトウエア(OSS)に置き換えたりしないと、コスト削減効果が得られない場合がある。

クラウド移行に7つのパターン

 オンプレミス環境で稼働しているシステムをクラウドに移行するアプローチとして、7つのパターンがある。米ガートナーがクラウド移行時のアーキテクチャーパターンとして定義する「リバイス(Revise)」「リビルド(Rebuild)」「リプレース(Replace)」「リホスト(Rehost)」「リファクタ(Refactor)」に、クラウドに移行しない方式である「リタイヤ(Retire)」「リテイン(Retain)」を加えた、モダナイゼーションの7Rと呼べるものだ(図2)。

図2●「モダナイゼーションの7R」による移行パターン
[画像のクリックで拡大表示]
  • リタイヤ:システムの廃止
     稼働中のシステムを停止もしくは破棄する。数年後にサービスが終了、あるいはベンダーのサポートが終了するタイミングでシステムの利用を停止

  • リテイン:システムの維持
     オンプレミス環境で稼働しているプラットフォームやシステムに変更を加えないでそのまま数年間稼働させ続ける、いわゆる塩漬けされるシステム

  • リバイス:一部改修
     既存システムのアーキテクチャーを維持しつつも、クラウドへ移行するためにアプリを追加・変更

  • リビルド:再構築
     既存のアプリを新しいサービス、プラットフォーム上で稼働させるために既存ロジックを再検討し、アプリを再構築

  • リプレース:新パッケージサービスへ移行
     既存アプリを破棄し、クラウドベンダーのSaaSなどが提供するアプリへ全面的に切り替える。SaaS移行やパッケージ導入によるシステム刷新が該当

  • リホスト:インフラ刷新
     アプリが稼働しているプラットフォームからIaaSのクラウド環境へ移行。仮想サーバーの種類が異なる場合、オンプレミス環境の仮想サーバーで稼働しているシステムイメージを、クラウドベンダーが提供するツールなどを利用して移行

  • リファクタ:ソースコードの改善
     既存システムの全体アーキテクチャーやアプリの仕様には変更を加えず、インフラ構成についてクラウドベンダーが提供するサービスを活用するために一部修正する

アプリのポータビリティを高める

 メインフレームや物理サーバー、仮想サーバーなどで稼働している既存システムは、OSを始めとするソフトウエアのバージョンやアーキテクチャーが古いケースが多い。そのため、クラウドへの移行タイミングで新しいものへ置き換えを検討することになる。そうなると必然的にOSから上のレイヤーを丸ごと再構築する「リビルド」が選ばれる。

 SaaSのように新しいものに一気に置き換える(=リプレース)方法もある。しかしアーキテクチャーを検討したうえでアプリを開発するようなケースでは、いきなり新しいプラットフォームに移行するのは難しい。まずは従来の運用手法を持ち込めるIaaSに移行し、その後、新しいプラットフォームへシフトする2段階で移行するケースが少なくない。

 従来、「リフト&シフト」というと、オンプレミス環境にある仮想サーバー上で稼働していシステムを現行踏襲でクラウド上で稼働させる方式のことを指していたが、最近では、一度クラウド環境に移行し(=リフト)そこからクラウドネイティブなサービスを活用してさらにアプリを高度化する(=シフト)ことを指すことのほうが増えてきた(図3)。

図3●リフト&シフトによる移行
[画像のクリックで拡大表示]

 ここで注意したいのは、IaaSへの移行完了をもってクラウド移行のプロジェクト自体を終了してはならないことだ。クラウドベンダーは、毎年のように新しいサービスを提供してくる。それら新サービスをキャッチアップしながら活用できるように、アプリのポータビリティを高めておくのが大切だ。

この先は有料会員の登録が必要です。「日経SYSTEMS」定期購読者もログインしてお読みいただけます。今なら有料会員(月額プラン)登録で6月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら