ものづくり、建設、ITの各業界において世間を大きく騒がせた大事故やトラブルを受け、企業の取り組みや制度・ルールはいかに変わったのか。過去の事故・トラブルは今、どのような形で生かされているのか。世間を騒がせた重大な事故・トラブルの教訓とは――。専門記者が徹底的に掘り下げるとともに未来を展望する。
 第7回は、福島第一原発事故や沖ノ鳥島沖海上事故、全日本空輸のシステムトラブルなどから、事故・トラブルにおいて「想定外」をどう捉えるべきかを考える。

参加者 浅野祐一=日経 xTECH 建設 編集長/日経ホームビルダー編集長
吉田 勝=日経 xTECH副編集長/日経ものづくり副編集長
中山 力=日経 xTECH副編集長/日経ものづくり副編集長
井上英明=日経 xTECH副編集長/日経コンピュータ副編集長
司会進行 大石基之=日経 xTECH編集長
戸川尚樹=日経 xTECH IT 編集長

――想定外という点では、何をおいても東日本大震災が挙げられます。今一度、大震災での想定外を振り返ってみたいと思います。

浅野東日本大震災は、とにかく「想定外」という言葉がよく用いられた災害でした。巨大な津波によって、東北沿岸部の街に壊滅的な被害を与えました。福島第一原子力発電所のメルトダウンは想定外の最たる例でしょう。

 建物のレベルでは、東日本大震災によって天井材の落下事故が相次ぎました。ここでも、想定外の揺れで天井が落下したとみる実務者は少なくありませんでした。しかし、天井の落下事故は過去にも繰り返されていた。現象としては想定外とは言えません。建物の構造躯体は大地震に耐えられる基準になっていても、非構造部材には十分な対策が確立していなかった。天井材については、東日本大震災の後に新たな天井設計の基準が制定されるとともに、軽い天井材という新発想の建材開発も進んでいます。

水素爆発で外壁が崩れ落ちた福島第1原発事故1号機
(出所:東京電力)
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吉田確かに、あらゆることを想定するのは難しいでしょう。私が問題だと思うのは、「絶対安全」にこだわり過ぎている風潮があることです。つまり、安全であることを証明したいがために、非常にレアなケースに目を向けたがらない。これは、言い換えれば、リスクアセスメントの考え方が根付いていないことです。リスクアセスメントというのは、ある事態が起こったときに、これこれこういう程度の被害が起こり得る、そしてそれが社会的に許容されるかどうかを評価して対策を検討するということです。

 例えば、自動車には死亡事故を起こす可能性があります。それでも社会的なメリットが大きいので許容されている。では、原発はどうなのかというところに、技術者も政治家も国民も十分に目を向けていなかったということだと思います。

 東日本大震災のような地震や津波によるメルトダウンは社会的に許容されないわけですが、そこの検討や周知がないがしろにされていた。一方で、原発にミサイルを撃ち込まれても大丈夫なようにしろとは求められていないわけです。

――それはもう仕方がない、と割り切るしかないのでしょうか。

吉田でも、想定はできているわけです。可能性としては。だったら、どのような確率で大丈夫なようにするんですかということです。たとえどんな小さな可能性であろうとも放射能漏れが起こることを社会が許容できないなら、原発は受け入れられないはずだといったことを、きちんと議論しなくてはいけなかったんです。

――想定外に備えよということでしょうか。

吉田想定外といっても、基本は想定しろということだと思うんです。可能な限りあらゆることを。福島第一原発事故でも、同程度の規模の津波は過去にも発生していましたし、海外では全電源喪失というトラブルも過去にあった。ですから決して想定外の事態ではなかったんです。

 十分な想定を検討すること、そのときに起こり得るリスクをきちんと評価して、それを社会に公表し、許容できるかどうかを問うこと。それが必要なんだと思います。こんなことは起こり得ないと言わないで、ちゃんと想定してみましょうという話です。

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