(写真:加藤 康)

 ものづくり、建設、ITの各業界において世間を大きく騒がせた大事故やトラブルを受け、企業の取り組みや制度・ルールはいかに変わったのか。過去の事故・トラブルは今、どのような形で生かされているのか。世間を騒がせた重大な事故・トラブルの教訓とは――。専門記者が徹底的に掘り下げるとともに未来を展望する。
 第5回は「維持管理の重要性」に焦点を当て、土木分野における中央自動車道の笹子トンネル天井板崩落事故や、シンドラー社のエレベーターにおける挟まれ事故を基に、インフラや製品を使う段階で求められる取り組みを抽出した。

参加者 浅野祐一=日経 xTECH 建設 編集長/日経ホームビルダー編集長
吉田 勝=日経 xTECH副編集長/日経ものづくり副編集長
中山 力=日経 xTECH副編集長/日経ものづくり副編集長
井上英明=日経 xTECH副編集長/日経コンピュータ副編集長
司会進行 大石基之=日経 xTECH編集長
戸川尚樹=日経 xTECH IT 編集長

――社会的影響という点では、笹子トンネルの天井板崩落事故は忘れられません。いろいろな意味で社会的影響がありましたが、この事故を振り返ってみたいと思います。浅野さん、ちょっと解説していただけますか。

浅野端的に言うと、維持管理と保守の重要性について社会に大きな警鐘を鳴らしたのが、2012年12月に発生した中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故です。事故を機に、日本のインフラの老朽化問題がクローズアップされるようになりました。

 実際には、インフラの老朽化は以前から指摘されていました。国土交通省は、事故が起こる前から国土交通白書で老朽化問題について取り上げ、対策の必要性にも言及していました。しかし実際には、国や自治体といった膨大なインフラを抱える管理者の腰は重く、インフラ点検や補修などへの本格的な取り組みは十分に進みませんでした。

事故発生の翌日深夜に撮影された崩落現場。東京側に向けて撮影した。奥に崩落を免れた天井板と隔壁の逆T字形の天井構造が見える。消防士が乗っている部分が、崩落した隔壁とみられる(写真:山梨県大月市消防本部)
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 笹子トンネルは、比較的、維持管理に力を入れていた中日本高速道路会社の施設です。それでも、天井材の危険を回避する取り組みは不十分だった。度重なる点検計画の変更や天井板撤去を含めたリフレッシュ計画の見送りといった事故以前の判断が、そのことを物語っています。リスクをもっと的確に捉えていれば、天井材を支えるアンカーに生じていた不備を早期に発見し、事故を防げたかもしれません。

 事故を受けて、道路など土木構造物の点検の仕組みがかなり整備されました。ただ、点検を要する施設の量はあまりにも多い。そこで、大量の施設を安いコストで点検するための技術開発が活発になってきました。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)など、さまざまな技術をインフラ管理の現場に投入しようという機運が高まっています。

――同じ建設分野でも、例えばマンションでは10年目には大規模修繕を実施するといった格好で、計画がはっきりしています。一方で、インフラではそういう発想があまりなかったのですか。

浅野定期的に点検しなければいけないという認識を持ったインフラ管理者は存在していました。ですが、インフラの数は膨大でコストもかかる。加えて、課題を解決できる技術開発や技術導入もあまり進まなかった。小規模な自治体では土木技術者自体が不足していて、リスク自体を十分に把握できていなかった面もあります。

 笹子の事故以降、点検の義務化という国を挙げての取り組みが始まってようやく、全てのインフラ管理者が保守点検の実施にかじを切れたのだと思います。

井上住宅は人がいる時間が長いので、10年目に点検しようというインセンティブが働くのでしょうか。

浅野所有者と利用者が一致している点は修繕に対する意識を高める要素かもしれません。それでも、住宅だからといって維持管理が万全とは限らないのです。

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