切迫する巨大災害への対応は、日本の都市・建築が抱える大きな課題だ。来たる首都直下地震や南海トラフ巨大地震など巨大災害への備えは万全だろうか。連載第8回は、本日発行の書籍「キーワードでわかる 都市・建築2.0」から、防災・減災分野の9つの注目キーワードを取り上げる。

 安全で安心な生活を維持するために、災害への備えは欠かせない。最新技術が、防災・減災対策と災害対応を新しい時代に合ったものに変えている最中だ。AI(人工知能)で揺れを制御するシステム(AI制振)や、センサーで建物の安全性を「見える化」する構造ヘルスモニタリングは建物利用者にも分かりやすく、導入事例が増えそうだ。

 大地震のほか、連続して襲来する大型台風、記録的豪雨、土砂災害、一部火山活動の活発化、テロや軍事攻撃を受ける懸念など、安全・安心な生活を脅かす危機がいくつも思い浮かぶ。さらに超高齢化社会の到来、生産年齢人口の減少、インフラの老朽化など社会には慢性的なストレスが生じている。クライシスマッピングのようにインターネット上で不特定多数の人々が力を出し合う新時代の共助も洗練されてきた。

 解析技術やロボットを活用したインテリジェントセキュリティーはすぐにも一般化しそうだ。コンピューターの進歩はシミュレーションの計算時間を短縮した。過去の災害に学び、新しい技術や考え方を取り入ることで、過去より安全・安心な建築・都市がつくられていく。

統合地震シミュレーション─1000種類の地震動を想定

〔図1〕地震動の生成過程、建物の応答など複数の解析を統合する統合地震シミュレーション(IES)。1000ケースの地震に対するシミュレーションで得られた各構造物の揺れやすさを可視化(出所:堀宗朗・東京大学教授)
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 自治体などの事前復興計画には、広範囲での被害想定ができるシミュレーションが有効だ。東京大学地震研究所の堀宗朗教授らが開発している「統合地震シミュレーター(IES)」は、スーパーコンピューター「京(けい)」で、1000パターンの地震動に対して25万棟以上の構造物がそれぞれどのくらい揺れるかを数時間から1日程度で計算し、可視化する〔図1〕。

 過去の地震動と建物倒壊率の関係から導かれた被害関数による被害想定に比べ、1000パターンの地震動に対するシミュレーションは信頼度が高い。東日本大震災で被災した都市のシミュレーションを行ったところ、被害関数による推定より実際の被害状況に近い結果が出ている。

 これまでシミュレーションを適用した都市に対して、結果に基づき推定した被害総額を提示している事例もある。耐震補強などの対策をとった場合に、被害推定総額がどのくらい下がるかなどの対策の効果を検証する計算方法も示している。IESを使えば自治体は確信を持って対策を推進できるだろう。

 IESは、都市のデジタルデータからつくった仮想現実都市、断層から地表までの地震動の生成過程を解析する地震動シミュレーター、建築物の構造種別に応答解析するシミュレーター、避難過程のシミュレーターなどのシミュレーション結果を統合して震災の過程を予測する。

 IESによるシミュレーションは、都市全体だけでなく、土木構造物や建築物を個別に扱うこともできる。東京都なら1mメッシュ単位の精度だが、超高層ビルや原子力発電所など個別の構造物の場合は数cm単位の精度で結果が得られる。

 堀教授は「IESの今後の課題は、物理的な地盤や建物の揺れだけでなく、経済や交通などの社会科学的な影響まで含めた地震災害の全過程をシミュレーションすることだ」と語る。

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