建築産業は成熟した産業だ。技術の進歩は情報・通信産業に比べて遅く、ビジネスが硬直化している。しかし、衣食住の「住」をつかさどる産業は、人間の生活から切り離すことはできない。水面下では着実に変化が起きている。その触媒となっているのがスタートアップだ。連載第2回は、「宇宙建築」など8つのキーワードを解説する。(日経 xTECH/日経アーキテクチュア)  

 スタートアップとは、新しいビジネスモデルの構築を目指す挑戦者や組織のことだ。例えば、地球を離れて新しい生活空間を求める宇宙建築。現在は米国が先行しているが、日本でも盛り上がる機運が見え始めた。垂直方向への物流を改善する知恵は、複合化する超高層建築や、急増する個別配送の解決にも欠かせない。

 環境も重要だ。神戸市では、新エネルギーを街で有効活用する水素社会の実証実験が始まった。そして、政府が推進する一億総活躍社会の実現に向けて、人間らしい仕事ができる働き方改革オフィスの設計が求められている。

 新しい取り組みを軌道に乗せるためには、ビジネスを永続的に続けるサイクルを生み出さなければならない。設計事務所や建設会社、デベロッパーはビジネスの新領域を開拓すべく、これまでの仕事では関わりがなかった分野の知識も取り込む必要がある。今や建築界に風穴を開けるのは、ロボット開発者や重工業メーカー、ITベンチャーなど新参の挑戦者かもしれないのだ。激変する時代に立ち向かうため、建築界は新しいプレーヤーたちとの協働が欠かせなくなってきた。

宇宙建築─今しか買えない“参入チケット”

〔図1〕米設計事務所のClouds Architecture Officeが、米航空宇宙局(NASA)と共同で技術研究を進める火星有人探査基地の「マーズ・アイス・ホーム(MIH)」。平均気温が氷点下43℃という火星の極寒の環境を生かして、3Dプリンターで氷で外壁をつくる(出所:NASA / Clouds AO / SEArch)
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 今日はまだ、専門の宇宙飛行士が活躍しているが、宇宙開発の第2世代として建築家が宇宙空間に進出する必要がある──。

 米ニューヨークを拠点とする設計事務所、Clouds Architecture Officeの設立パートナーである曽野正之氏は、そう語る。曽野氏を含む設計チームは、米航空宇宙局(NASA)が2015年に実施した火星有人探査基地のコンセプト設計に、3Dプリンターで氷の外壁をつくる建物を提案した。このアイデアはNASAに採用され、2030年代に火星に人類を送るミッションに組み込まれた。

 曽野氏らはNASAで最も古いラングレー研究所と共同で、コンペで提案した「マーズ・アイス・ホーム(MIH)」の研究を深めている〔図1〕。曽野氏は「米国では産官学が連携して、宇宙での建築に関するイノベーションが活発に行われている。生活環境づくりでは建築家の知見が欠かせない」と説明する。

 実際、米国では民間の宇宙産業が現実味を帯びつつある。象徴的なのは、米起業家のイーロン・マスク氏が経営するSpaceX(スペースX)社のロケット打ち上げ回数の急増だろう。10日に1回程度の打ち上げを実施しなければ、人工衛星の打ち上げなど、大量の受注残を処理できなくなっているという。

 日本も負けていない。17年12月13日、月面資源開発ビジネスを手掛ける国内ベンチャー、ispace(アイスペース、東京都港区)が総額100億円超の資金調達を完了したと発表した。第三者割当増資で新規株主となったのは、産業革新機構や日本政策投資銀行といったファンドをはじめ、メディアの東京放送ホールディングス、電気機器メーカーのコニカミノルタ、自動車メーカーのスズキなど。様々な産業から出資が相次ぎ、建築界では清水建設が名乗りを上げた。

 宇宙産業は、まだ大きなリスクが伴う。ロケットの打ち上げは精度が上がったとはいえ、失敗すれば莫大な投資が一瞬で消える。また、投資を回収するまでにどれほどの期間が必要か予測が難しい。それでも多くの産業から熱視線が集まっている理由は、何か。

 産業革新機構ベンチャー・グロース投資グループ長の土田誠行専務取締役は、「宇宙ベンチャーへの投資は、宇宙産業に参加するためのチケットのようなもの」と表現する。「今ならまだ数十億円の投資でこのチケットが買える。しかし、宇宙産業が本格化すれば数百億円を投資してもチケットすら入手できないかもしれない」と土田専務は話す。

 産業革新機構が見据える宇宙時代の到来は、わずか数年先。宇宙空間に進出する民間人が増加すれば、滞在期間も長期化する。地球圏外においても「居住性」や「ヒューマンファクター」という設計思想が重要だ。建築家も、来る宇宙時代に備える必要がある。

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