日本は、人口急減と超高齢化を他国よりも早く経験する「課題先進国」。首都・東京は、国際的な都市間競争で生き残るため、不断の都市更新を続ける。一方、財政難の地方都市は、公民連携などの観点で再生の活路を模索する。連載第1回は、新たな手法や技術が、都市とまちをどう変えるのかを9つのキーワードで解説する。(日経 xTECH/日経アーキテクチュア)  

 ある特定の物理世界をコンピューター上に双子のように再現するデジタルツインという考え方がある。製造業分野のシミュレーション技術で、あらかじめモノやその挙動をモデル化して課題を検証する。これが都市にも広がりつつある。例えば国内の先駆けとしては、クリエーティブプロダクションのライゾマティクスが経済産業省のプロジェクトとして進めた「3D City Experience Lab.」がある〔図1〕。

〔図1〕「3D City Experience Lab.」プロジェクトから生まれたShibuya 3D DATA × GEOLOCATION。3D化した渋谷に建物の高さ情報、用途情報などを関連付けてビジュアル化する試み(出所:ライゾマティクス)
[画像のクリックで拡大表示]

 都市づくりに影響を与える技術として挙がるのは目下、クルマの自動走行システムが筆頭格。公共交通機関に自動走行バスなどを導入し、渋滞緩和や環境配慮を図るART(次世代都市交通システム)の実証実験も始まる。駐車まで自動化する自動バレーパーキングも、配置を含む駐車施設の計画を激変させる。

 建築設計以外のサービス業に進出し、データオリエンテッドなまちづくりをビジネスにしようとする動きも現れている。「ICTエリアマネジメントによって空間を徹底的に使い倒し、運用をシミュレーションしながらすぐに軌道修正を提案する。それが本当の空間デザインとされる時代になる」と日建設計総合研究所の川除(かわよけ)隆広・上席研究員は語る。

デジタルツイン─仮想都市を使って開発事業を検討

 デジタルツイン──デジタル技術により、実在するモノの「双子」を仮想的につくることだ。これをシミュレーションモデルなどに用い、ものづくりに役立てる。大改造の進む東京・渋谷は、早速その対象となった。

 「3D(3次元)化の魅力や具体的なニーズ、データを公開する際の障壁などを多角的に検証するのが狙いだ。都市の案内や工事状況の確認など用途は様々にあり得る。アップデートされる様々なオープンデータと連携させて全体を俯瞰できれば、今よりも個々に特色のある都市開発事業が可能になる」とプロジェクトを率いたライゾマティクスの齋藤精一代表取締役は語る。

 渋谷の地下を3Dスキャンしてつなぎ合わせ、一体の仮想空間とした「Shibuya 3D Underground」〔図2〕の制作時には地権者らと地下を巡った。取得データをオープン化するには、どこから承認を得るか、どこがその領域の区分になるかなどを洗い出した。複数枚の写真の視差を利用して3Dモデルをつくるフォトグラメトリー技術を用い、東急電鉄提供の空撮写真などから渋谷をVR(Virtual Riality、仮想現実)化するプロジェクトなども進む。

〔図2〕「3D City Experience Lab.」プロジェクトから生まれたShibuya 3D Underground(下3点も)。このVR空間を用いて映像制作が進行中(出所:ライゾマティクス)
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
 
(出所:ライゾマティクス)

 リアルさを追求するわけではないのが、ライゾマティクスの面目躍如たるところだ。同社が実績を上げてきたメディアアート分野には、その時々の技術よりも何歩か進んだ未来を垣間見させる役割がある。「技術的な完全さより、粗があっても街の記憶を喚起するような人間的な表現に寄っていきたい」と齋藤氏は語る。

 3D建築データのLOD(Level of Development、設計の進捗に応じた情報詳細度の指標)を上げる方向性と、3D都市データの用途を広げる方向性は分けて考える必要がある。シンガポールの政府機関である国立研究財団(NRF)などが取り組み、18年夏には「国丸ごと3Dデータ」が完成する予定の「バーチャル・シンガポール」〔図3〕は、目的に沿った精度のモデルを同居させる考え方を取る。

〔図3〕「バーチャール・シンガポール」(出所:ダッソー・システムズ)
[画像のクリックで拡大表示]
並行してフランスの都市を同じソリューションで3Dモデル化した「バーチャル・レンヌ」(出所:ダッソー・システムズ)
[画像のクリックで拡大表示]

 フランス本拠のCADベンダーであるダッソー・システムズが3Dモデル化を担当し、都市づくりを対象とするソリューション「3DEXPERIEN City」を用いる。「環境、防災、交通など様々なシミュレーションが可能で、問題が大きくなる前に把握して都市計画や都市政策に反映させる。根底では、各省庁が縦割りを乗り越えて協力するプラットフォームの大切さを認識して進めているプロジェクトだ」(ダッソー・システムズ3DSビジネストランスフォーメーション事業部インダストリー営業第3部の熊野和久シニア・セールス・マネージャー)。

 シンガポールでは、建築確認申請にBIM(Building Infomation Modeling)データによる納品の義務化が進む。将来BIMモデルを最適なLODに戻してバーチャル・シンガポールに取り込むことも視野に入れ、既に一部で試みている段階だ。

この先は有料会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は申し込み初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら