技術はユーザーのためにある――。日々サービスやシステムの開発に勤しむエンジニアからすれば言わずもがなのことかもしれない。だが、意識の問題かマネジメントの問題かはさておき、実際の現場では技術ありき、自社の都合ありきで開発が進んでしまうことも少なくない。
 その悪癖を断ち、「良いサービス」を作り育てるにはどうすればいいのか。決算書からIT・Web業界の最先端ビジネスモデルを読み解き、ロングセラーの書籍『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』の著者であるシバタナオキ氏が、ユーザーローカル代表の伊藤将雄氏に迫った。
 伊藤氏は、学生時代に作った「みんなの就職活動日記(現「楽天 みん就」)」をヒットサービスに育て、ユーザーローカルを起業。その後はビッグデータの解析・AI(人工知能)による情報提供サービスで同社を上場企業に成長させた。BtoCとBtoBの両方で実績を残してきた同氏が明かした、良いサービスを生むポイントとは?

お金よりも価値があるものを追い求める

シバタ:僕と伊藤さんは、楽天にいた時期が重なっていますね。確か、僕が楽天に入社したのは、伊藤さんが開発した「みんなの就職活動日記(以下、みん就)を楽天と株式交換した後でした。

伊藤:そうですね。みん就が楽天グループになったのは2004年のことです。

ユーザーローカルの伊藤将雄氏(右)とシバタナオキ氏(左)
(撮影:伊藤健吾、以下同じ)
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シバタ:伊藤さんとは別の部署でしたが、たまに会話をする中でいただいたアドバイスは、自分で起業した今もすごく役に立っているんですよ。「本質的にユーザーが求めるサービスを作るにはどうしたらよいか」ということを教えていただいたのは、すごく大きかった。

伊藤:ビジネスをやる上で売り上げを生むのはもちろん大事です。でも、誰かに「お金を払う価値がある」と思ってもらうためには、お金よりも価値があるものを追い求めないといけない。僕は、それが「ユーザー」だと思っています。

シバタ:それ、サービス開発に携わる人ならほぼ全員が同意する考え方だと思うのですが、伊藤さんは本当に徹底していますよね。どうしてそう考えるように?

伊藤:やっぱりみん就での経験が大きいですね。あのサイトは、自分が就職活動をしてみて「こんなサイトがあったら」と思ったのを形にしたのが誕生のきっかけで。当時はお金を生んでいませんでしたが、社会人になってからもずっと個人で開発・運用をしていました。

シバタ:働きながら、ですよね? なぜ続けることに?

伊藤:毎年、就職活動が終わる時期になると、メールが来るんですよ。「みん就のお陰で就職が決まりました」とか、「みん就で、自分に合った会社が見つかりました」というお礼メールが、毎年150通くらい。

シバタ:個人でやっていたサービスで、かつ、インターネットもまだまだ普及していない時代ですよね? そう考えるとすごい量です。

伊藤:そういうメールをもらうと、こちらも自然と「頑張って続けねば」「もっと使いやすくせねば」となりますよね。あの頃の経験は、自分の原体験になっています。ユーザーを欺かずにサービスを作っていくことが、結果的にビジネスにもつながると。

 これを他の人にも伝えたいと思い、楽天を退職した後に大学院でユーザー行動を解析・可視化するという研究をして、それを基にユーザーローカルという会社を立ち上げました。