「ある大手小売業が我々との直取引を解禁してくれましたよ」。ITベンチャーの人と雑談していた時、私が「もうかってまっか」と水を向けたら、そんな言葉が返ってきた。他の顧客は企業規模の大小を問わず直取引に応じてくれていたが、その大手小売業だけは今まで応じてくれず、最近になってようやくOKが出たという。私はこの話を聞いて、日本の企業社会の大きな変化にひどく鈍感になっていたとハッした。

 若い読者は「いったい何の話をしているんだ」と思ったはずだ。「売りたい企業と買いたい企業があれば、取引するのは当たり前ではないか。そもそも直取引とは何なんだ。何か特別な取引なのか」。そんな疑問を持っているはずだ。もちろん直取引は特別な取引ではない。読んで字のごとく、第三者を介在させず直(ちょく)で取引することで「じきとりひき」と読む。若い読者の次の疑問はこうだろう。「えっ、じゃあ、なぜ直で取引しちゃダメなの?」

 実は一昔前まで、日本の大企業は中小企業、特にベンチャー企業と直で取引するケースはまれだった。理由は簡単で「信用できない」からである。製品やサービスに見るべきものがあっても、その企業が経営破綻して、製品のサポートやサービスそのものが途絶えると一大事。特に大企業のIT部門は保守的で、システム開発や保守運用を任せるのは大手SIerが基本だ。「どこの馬の骨か分からない連中と直取引などできるか」と言い放つシステム部長もいた。

 唯一、ベンチャー企業などが大企業向けにビジネスができるのは、その大企業と取引関係にある企業を通すケースだ。ITベンチャーならば大手SIerを介する。これにより、もしITベンチャーが経営破綻したり、製品サポートやサービスを打ち切ったりした場合には、IT部門はSIerに責任を取らせ、何とかさせられるわけだ。中にはSIerも直取引に応じず、下請けのITベンダーを介してしかITベンチャーがビジネスできないケースもあった。

 だから冒頭のITベンチャーの人の話を聞いて、少し反省したのだ。以前は大企業の多くで直取引はNG、今は逆に大企業の多くで直取引はOK。そうすると、過去のどこかのタイミングで、大企業が続々とベンチャー企業などとの直取引を認めるようになったわけだ。日本の企業社会の大きな変局点だったのだから、私としてはこの「極言暴論」などで騒ぎ立てねばならなかった。ここ2~3年の話だと思うが、気付かずスルーしてしまったのが悔やまれる。

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