昨年末の話だが、岐阜県高山市と飛騨市に出張に行く機会があった。地場の金融機関である飛騨信用組合が12月、電子地域通貨「さるぼぼコイン」を正式スタートすると聞き、現地に駆けつけた。

 飛騨高山エリアといえば、一昨年大ヒットしたアニメ映画「君の名は。」の聖地として知られている。ワンシーンに登場した飛騨古川駅を眺めるぐらいしかできなかったが、旅情をくすぐる美しくノスタルジックな街の光景は心を打った。そこで日々飯を食い、友や家族と笑い、時に一人涙をこぼすこともあるであろうごく普通の住民たちが、FinTechの文脈では先端的な取り組みに挑戦するという“取り合わせの妙”が、個人的にはなんとも興味深いものだった。

飛騨信用組合の本部外観
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「消滅可能性都市」回避の切り札は

 さるぼぼコインのコンセプトはずばり「お金の地産地消」だという。

 飛騨高山エリアもご多分に漏れず人口減少が進んでおり、飛騨市の場合、1985年に3万4641人だったのが、2010年には2万6732人と7.51%も減った。65歳以上が人口に占める割合も15.3%から33.3%と倍増し、高齢化も進んでいる。同じ現象に直面し悩む地方自治体は、なにも飛騨市や高山市ばかりではない。

 日本創成会議の座長である増田寛也氏が単著「地方消滅」の中で明かしたように、2040年までに全国1799(調査当時の数)の市区町村のうち、896が「消滅可能性都市」。20~39歳の若い女性人口が5割以下に減少し、人口を維持できるだけの出生率に満たないためだ。896のうち523の市区町村は人口が1万人未満となり消滅の可能性が特に高く危機に瀕しているとされる。

 「抜本的に地域を活性化させるには、今までにないビジネスモデルを地域として打ち出さなければならない。そう考えた」。飛騨信用組合 理事長の大原 誠氏がこう語るように、さるぼぼコインはFinTechの力を借りて新しい資金流通の波を誘発することが最大の狙いだ。消費者と消費者、消費者と店舗、店舗と店舗のそれぞれで、経済の血液としてのお金が活発に巡るようにしたいのだという。

 ちなみにさるぼぼとは、この地方特有の赤色をした人形で、お土産としても人気が高い。「ぼぼ」は飛騨弁で赤ん坊のことを指し、つまり猿の赤ん坊という意味なんだそうだ。なんともかわいらしい名前である。

 実際、さるぼぼコインを試してみたが、使い勝手は快適そのもの。スマホにインストールした専用アプリがサイフ代わりで、買い物するには店舗に掲示されたポスターに印字された2次元バーコード「QRコード」をパシャリと撮影。商品の金額を入力して決済し、完了したらその画面を店員に見せればOKだ。

「さるぼぼコイン」は店舗に掲げられたステッカーやポスターのQRコードをスマホで読み取って決済する電子地域通貨だ
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 首都圏在住の筆者は、日々「QUICPay」や「Suica」といった電子決済の世界にどっぷり浸かって暮らしているが、利便性は遜色ないと感じた。QRコード決済は中国発の「WeChat Pay」や「Alipay」で採用されていることが知られている。最近は国内でもLINEや楽天、NTTドコモなどが相次ぎ自社の決済サービスで導入し、これから浸透が期待されている段階にある。飛騨信用組合の場合、サービス開始当初に約100店舗、2018年3月に約500店舗まで広げるという野心的な計画を掲げ、“ロケットスタート”での普及を目指している。

 現時点で具体的な契約者数は非開示だが、飛騨信用組合の窓口で現金からさるぼぼコインにチャージすると1%分のプレミアムが上乗せするサービスを打ち出したこともあり、順調に増えている様子。飛騨信用組合に口座があればオンライン口座振替でのチャージに対応し、さらに2018年下期にはクレジットカードによるチャージにも対応する計画だ。加盟店舗が増えれば契約者も増えるという好循環が生まれそうである。

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