ニューヨークだけが米国ではないように、東京だけが日本ではない。こんな当たり前の事実を改めて気付かされた。タクシー大手、第一交通産業が中国のスマートフォン(スマホ)配車サービス大手の滴滴出行(ディディチューシン)と提携したいきさつを取材したときのことだ。

 同社は2017年11月、滴滴出行との提携を発表した。2018年春をメドに、滴滴出行の配車サービスを東京や大阪など数カ所で始める。訪日中国人が滴滴出行のアプリを日本で立ち上げると、第一交通産業のタクシーを呼べるようにする。

 違法な白タク事業者と手を組むのか――。提携を発表した当初、第一交通の田中亮一郎社長の元には同業のタクシー事業者を中心に非難の声が寄せられたという。

「率先して新しいことに取り組めば運転手からもお客からも選ばれる会社になれる」と語る田中社長
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 滴滴出行は中国で4億5000万人の会員を持つスマホ配車サービスの世界最大手。個人が自家用車を使って有料で客を送り届けるライドシェアサービスを、スマホ経由で提供する。中国国内では合法だが、日本国内ではタクシー事業者の免許を持たない個人によるライドシェアは、違法な白タク行為に当たる。中国の配車サービスによるライドシェアは日本でもヤミで横行するなど、タクシー業界にとって滴滴出行は宿敵だ。

 「滴滴出行と組んで始めるのはタクシーをスマホから呼べるようにする配車サービス。白タクはやりません」。田中社長は批判的な意見や誤解に対して1つひとつ説明し理解を得ていった。

 第一交通はなぜ宿敵と手を組んだのか。田中社長は苦しい胸の内を明かした。

相手の手の内を知らなければ

 「中国人客が使い慣れた滴滴出行のアプリを日本で使えなかったら、日本へのイメージが大きく損なわれる。タクシー業界だけでなく日本の交通や観光の産業全体にマイナスだ」。田中社長が第一の理由に挙げたのは訪日外国人客(インバウンド)向けのサービス向上だ。

 「中国のスマホ配車大手による白タク行為が日本で問題になっているが、利用者である中国からの訪日客は、日本で白タクが違法だと知らないのかもしれない。違法だと知っていても、合法な日本のタクシーの呼び方とか運賃が分からない可能性もあるだろう。こうした状況を放置したまま、ただ反対と声を上げていても違法な白タク行為を防ぎきれない」。

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