JR九州の超豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」や「或る列車」などで有名なデザイナーの水戸岡鋭治氏。ユーザーが心地良く感じるデザインを実現しながら、数々のヒット商品を生んできた。それを可能にする考え方と素材の使い方の極意、そして素材メーカーへの注文について水戸岡氏が語った。

 僕が電車や建築に使った材料に、アルミニウム合金の押し出し材に薄い木材を貼ったものがあります。新しさと懐かしさを融合させた材料です。表面には天然木を使っていますが、きちんと不燃試験を通ったもので、内装の壁材として使用するのです。特に「ななつ星 in 九州(以下、ななつ星)」には大量に使いました。

超豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」。モダンデザインではなく、クラシックなデザインで作られている。
(出所:ドーンデザイン研究所)
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かんなで削った薄い木材をアルミ合金に貼る

 作る時は木材をかんなでスライスします。かんなで木材をシューッと削って、0.2mmくらいの紙のような薄さにする。刃の幅が20cmと長くて、その幅で削れた薄い木のシートが得られる。これをゴムや手で押さえながらアルミ合金の押し出し材に貼るのです。すると、外観は木の塊に見えるけれど、強度や難燃性をきちんと確保した材料が出来るというわけです。

木の風合いを備えた内装の壁材。薄い木のシートをアルミ合金の押し出し材に貼って作っている。
(出所:ドーンデザイン研究所)
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木の風合いの壁材を組み合わせてデザインした枠。木から加工したように見える。
(出所:ドーンデザイン研究所)
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 そして、木のシートの表面にはコンピューター制御のインクジェットプリンターで柄を印刷しました。木目の上に印刷しているので、すごく深みのある、不思議な印象の柄になる。とても高級感があります。江戸時代はふすまや杉戸などに絵を描いていました。その手法です。ただし、コンピューター制御のインクジェットプリンターを使うので、昔はできなかった細かい柄を描けるのです。この技術も古くて懐かしいものと最先端のものとの融合と言えます。

 障子には和紙を塩化ビニル(PVC)シートでの両面からラミネートした強化和紙(商品名「ワーロンシート」)を使っています。和紙のように見えますが、難燃性の観点からこれを使っています。障子の木の厚さも実に薄い。ななつ星では、わずか12cmと限られた厚さの壁の中に、ガラスや板戸、ロールブラインド、障子、カーテンを収めなければならなかったからです。強度を保てるように、木の枠にスチールパイプを入れて補強したこともあります。木だけではねじれてしまいますから。

 最初は、「こんなに薄い障子なんて非常識だ。出来るわけがない」と言われました。10数cmの厚さしかない壁に、4枚も5枚も扉(材料)を入れろというのだから、無理もありません。でも、デザイナーが「こういうふうにしたいから5枚入れてよ」と言えば、日本には技術力があるから、結局は出来てくる。

 こうした「非常識」を突破したところに、新商品が生まれ、ヒット商品が誕生するのです。事実、僕が手掛けて成功したほとんどのプロジェクトは、みんなで非常識なことをやっている。非常識という不都合を聞いて頑張ると心地よい商品が生まれ、みんながハッピーになれる空間が出来る。そのためには、ほんのちょっとでいいから、非常識を越える努力が必要です。

表面には木を使いながら、木が薄くても強度を保てるように、内部に鋼の芯を補強材として使うケースもある。
(出所:ドーンデザイン研究所)
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