JR九州の超豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」や「或る列車」などの鉄道デザインで著名な水戸岡鋭治氏。近年は電車やバスにとどまらず、JR大分駅の駅舎や長野県・小布施町の街並みのデザインも手掛けるなど活躍の幅を広げている。ものづくりから街づくりまでのデザインにおける考え方や材料選択の意味を水戸岡氏に聞いた。

 素材が決まらないとデザインはできない――。これが、僕のデザインにおける材料の位置付けです。素材が決まらないと、スタイルも形も色も予算も決まらない。もっと言えば、プランの段階から材料選択はものすごく影響します。

 電車にしろ船にしろ建築にしろ、どんな素材を使ってデザインするかがとても重要です。多くの場合、素材そのものがデザインのスタイルを決めているからです。

水戸岡鋭治(みとおか えいじ)
ドーンデザイン研究所代表取締役/デザイナー。JR九州デザイン顧問。1947年岡山県生まれ。65年岡山県立岡山工業高校卒。大阪やイタリアのデザイン事務所を経て、72年ドーンデザイン研究所を設立。鉄道車両や建築、駅舎、バス、船などさまざまな分野のデザインを手掛ける。中でも、JR九州の車両や駅舎のデザインは鉄道ファンの枠を越えて広く注目を集め、多くの受賞歴がある。(撮影:吉成 大輔)
[画像のクリックで拡大表示]

 僕は可能な限り天然素材を使いたいと考えています。ところが、天然素材を使うのは大変です。コストが高くなるし、手間もかかる。メンテナンスにお金が掛かる上に、外観や質感も均一ではない。すると、作る側には不都合なことがたくさん生まれてきます。利益率や利便性を重視するなら金属や樹脂、ガラスといった一般の工業材料ばかりを使った方が楽です。でも、それは作り手側の都合であって、利用者の視点に立っているとは言えません。天然素材は利用者のうれしさや、心地良さ、珍しさなどの期待値を高めていくからです。

 天然素材は量をそろえるのが大変です。特注品や一品物なら必要な分だけ量があれば十分。でも、量産品を作る場合はなかなかそうはいきませんから、量をそろえられるという観点も考慮する必要があり、そこに苦労します。一方で、全てを天然素材で作る必要はありません。一部に天然素材を使い、残りに工業材料を組み合わせるという方法を使うと、量の問題を回避できます。

モダンデザインのカフェは流行らない

 デザインそのものはさまざまな材料を使った方が楽しくなります。たくさんの材料やスタイル、色を使用する方が贅沢で豊かなデザインになっていくからです。

 僕のデザインの理想は「楽しい空間を作ること」。楽しい空間をデザインのテーマにすると、不都合が実に多くなる。木も使えばガラスも使うということになるからです。木材やガラスを使うのは建築デザインでは当たり前ですが、工業デザインの場合はそうではありません。例えば、鉄道車両では、木やガラス、石といったものはタブーの世界に入っていると言っても過言ではない。通常は金属やアルミニウム合金、樹脂といった材料で作っていく。すると、工業製品そのもののデザインになってしまいます。そこからいかに離れて建築の世界に近づけるか。それが課題となります。マンションや別荘、ホテルなどに近づけるために、どうしても天然素材を使わなくてはならないというわけです。

 建築でも今のデザインは、シンプルなモダンデザインが主流です。だから、木だけ、アルミ合金だけ、ガラスだけを全面に使った空間が圧倒的に多い。でも、それに一般の人の多くが本当に満足しているのか、ちょっと疑問に思っています。例えば、カフェにしても居酒屋にしても、人気の店はクラシックなデザインが目立つ。超モダンで成功している例は少ない。確率的には圧倒的に少ないのではないでしょうか。むしろクラシックなデザインが上手にできたら大体成功しますね。

 例えば、居酒屋では100年前の住宅を直したり、手を加えたりした店がヒットしています。利用者の立場になるとモダンデザインはあまり好かれない。ところがデザイナーの仕事は、ほぼモダンデザインの追求になっています。なぜかというと、デザインのトレンドに大きな影響を持つ欧米の富裕層の多くがクラシックデザインの家になじんでおり、モダンデザインが大好きだからです。逆に、クラシックなデザインの家に住んでいない一般の人は、クラシックなデザインを求めるというわけです。

この先は有料会員の登録が必要です。有料会員(月額プラン)は申し込み初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら