軽くて強い、理想的な軽量化材料の筆頭とも言える炭素繊維。その優位性は、工業製品としても建設資材としても身近な強度材料である鉄鋼(以下、鋼)と比べると分かりやすい。軽さを示す比重は約1.8と、鋼の7.8に比べて約1/4。強さを示す比強度(引っ張り強さ/比重)は鋼の約10倍。つまり、炭素繊維は鋼よりも75%も軽く、10倍も強い材料なのである。

 この特性に大きな関心を寄せているのが自動車業界だ。炭素繊維を強化材として樹脂に混ぜた炭素繊維強化樹脂(CFRP)を使い、鋼をはじめとする金属製部品を置き換えれば、クルマの大胆な軽量化を実現できるからだ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、ボディー骨格やフードなどにCFRPを積極的に採用すれば、車体重量(クルマの質量)を970kgと、鋼中心の現行のクルマの1380kgから410kgも減らせると試算している。約3割の軽量化だ。この軽さがもたらす燃費向上効果は実に22.5%にもなる(図1)。

図1 CFRPをクルマに採用した場合の軽量化と燃費向上の効果
熱可塑性CFRPをできる限り使うと、鋼製主体の現行のクルマと比べて、車体重量を410kgも軽くできる。これに伴い、燃費は22.5%向上する。(出所:新エネルギー・産業技術総合開発機構)
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炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)の成形技術が加速

 目下、最大の課題は材料価格の高さだ。炭素繊維の含有量や、それに伴う強度や弾性率、耐熱性などの性能の差で幅があるが、CFRPの価格は「1500~7000円/kg」〔CFRPの成形を手掛けるキャップ(本社静岡県・森町)〕、ざっと鋼の10倍以上だ。価格が下がらない最大の理由は生産量の少なさ。ただし、現在高級車を中心にクルマへのCFRPの採用は増えており、近い将来、量産効果によって価格がこなれると期待されている。

 もう1つの課題は、生産性の低さだ。現在、最も一般的なCFRPは、加熱すると固まるエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂に炭素繊維を混ぜるタイプ。例えば、航空機の構造部材などに使う場合は、高温高圧の圧力釜であるオートクレーブを使って成形するため、加工終了まで2~4時間かかる。これでは自動車のような大量生産の製品には時間的にも生産コスト的にも向かない。

 そこで、現在開発が加速しているのが、加熱すると溶融し冷えると固化する熱可塑性樹脂を使うCFRPである。これをCFRTP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)と呼ぶ。CFRTPは熱硬化性CFRPよりも成形時間を圧倒的に短くできるため、コストを下げられる。具体的には、大物部品のプレス成形でも数分以内、小物部品であれば射出成形を使えるので一般的なプラスチックも通常の樹脂製部品と同じく30秒以内で成形できる。これなら、自動車のような大量生産に使える可能性が見えてくる。

 CFRTPなら、金属を置き換えて大幅な軽量化を実現し、かつ量産性を満たしてコストを抑えられる。そのため、CFRTPを使った製品が続々と誕生している。

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