日経アーキテクチュアの最新号に掲載した建築物をピックアップ。今号の1枚は、平井広行さんが撮影した「静岡県富士山世界遺産センター」です。「建築プロジェクトデータベース」(日経 xTECH有料会員サービス)では、雑誌の発行と連動して最新の建築情報を更新。概要データや写真・図面などを見ることができます。

JR身延線・富士宮駅に続く県道414号側から見る。設計者の坂茂氏は、2014年の静岡県による公募型設計プロポーザルで選ばれた。13年に世界文化遺産となった富士山の情報を発信する拠点施設としての象徴性を考慮し、逆さ富士の形を持つ展示室を提案した(写真:平井 広行)
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(日経アーキテクチュア2月8日号フォーカス建築から)

 「富士山は日本で最もメッセージ性の強いモニュメント。それが目前にそびえる場所に建つ建築は、象徴性が重要だと考えた」。静岡県富士山世界遺産センターの設計者である坂茂建築設計(東京都世田谷区)代表の坂茂氏はそう話す。

 2013年に富士山が「信仰の対象と芸術の源泉」として世界文化遺産に登録されたのを受け、静岡県は国内外に情報発信する拠点施設を計画。候補地から、富士山本宮(ほんぐう)浅間(せんげん)大社に近接する建設地を選んだ。

 14年の公募型設計プロポーザルで、坂氏が導いた案は、逆さ富士形の建築だ。富士山の湧水を利用した水盤がそれを映し出すことで、鏡像として富士山形が完成する。「中学・高校の頃にラグビー部の合宿で山中湖に行った。水面に映る逆さ富士の強烈な印象があった」(坂氏)

 大社内の湧玉池(わくたまいけ)を水源とする神田川から引いた水は、1年を通して約15℃と安定しているため、水盤に張る前に冷暖房の熱源として利用する。年間空調エネルギーの約20%を削減できる試算だ。「『富士の水の循環と反映』がプロポーザル時からのテーマの1つ」と坂氏は言う。

 建物に入ると、スロープで逆さ富士の内部の展示室へと導かれる。全長193mのスロープに沿って、海から富士山頂までの風景が壁面に映し出され、登山の疑似体験ができる。映像同士の間では、投影された登山者の動く影に、自分の影が重なる。投影機の位置の関係で、風景を映し出しにくい場所を、逆転の発想で登山を印象付けるインスタレーションに生かした。

 「建築と展示空間が一体になることが重要」と考えた坂氏は、展示コンテンツの総合監修に竹村眞一氏(京都造形芸術大学教授)、展示デザイン監修にエドウィン・シュロスバーグ氏(米・ESIDESIGN代表)を招へい。展示設計の丹青社が取りまとめ役となり、県職員と5人の学芸員を交えた5者で展示デザインのワークショップを行い方向性をまとめた。