権限委譲とは、与えられた目標を達成するために、上司が自分の業務上の権限の一部を部下に与え、部下本人の裁量で仕事をさせることです。権限を委譲された部下は業務の執行責任を持ち、上司には結果責任があります。

 「仕事の成果を上司にほめられた」、「大きな仕事を任されてやり切った」など──。あなたが若手だった頃、自分の成長を実感できたのは、こうした時ではなかったでしょうか。

 上司は仕事をただ切り分けて部下に割り振るだけではなく、自分が成長する上で最も役に立った経験を部下にもさせる。これが権限委譲の本質です。

権限委譲のメリット

 権限委譲することで多くのメリットがあります。

[1]部下の目的意識と責任感を強化できる

 上司の指示でやっていた上位の仕事を自分の裁量で進めることができれば、部下の目的意識や責任感を喚起し、モチベーションを高めることができます。成功体験は部下に自信を与え、より高いレベルにチャレンジする精神を育みます。失敗体験はさらにレベルアップするために何が必要かを考えるきっかけになります。

[2]上司が重要なコア業務に専念できる

 上司が部下に仕事を任せることができれば、上司はより付加価値の高い業務に時間を投下することで価値を創造できます。権限委譲のスキルを磨くことは、管理者がさらに上位の職位にステップアップするための必須条件でもあります。

[3]社員の能力開発で組織力を向上できる

 挑戦的な仕事を任された部下が、新たな困難に立ち向かい、試行錯誤しながら課題を解決していく。これにより、本人の能力が開発されて成長につなげることができます。社員の個々の能力が高まることで、組織力強化に向けた人材の適正配置がしやすくなります。

なぜ、権限委譲は進まないのか

 権限委譲は、社員の自律性を高め、組織の生産性向上に有効なマネジメント手法です。にもかかわらず、活用度合いの低いマネジメントスキルだと言われています。

 権限委譲が進まない理由として、上司が必要以上に仕事を抱え込んでしまっていることを認識していない場合があります。間違いなく、仕事は知識や経験が豊富な上司がやった方が早くて確実です。

 しかし、権限委譲の目的は部下に成長の機会を提供し、組織力を強化することにあることを忘れてはいけません。

 部下が未熟だったり、意識が低かったりする場合、任せたくても怖くて任せることができないこともあります。上司が行えば、全体的な視野で判断されていたはずのことが、部下自身の保身や目先の利益だけで判断してしまうこともあるかもしれません。

 誰にどの範囲まで権限委譲するかは上司の責務であり、サポートの程度を調整しながら、部下の能力に見合った任せ方をしなければなりません。部下が未熟だからこそ、育てる必要があるのです。

 権限委譲は、部下に丸投げしたり、ほったらかしにしたりすることではありません。上司のマネジメントに問題があれば、権限委譲は進まず、部下のモチベーションは下がって、やる気を失ってしまうのです。