電気自動車(EV)メーカーの米テスラ(Tesla)が、同社として過去最大規模のリコールを2018年3月末に開始した。パワーステアリングのモーターを固定するボルトが腐食し、ハンドル操作に強い力が必要となるケースがあるというのだ(関連記事)。この出来事は、新たな技術として世界の耳目を集めるEVも、ボルト1本の不具合でリコールになり得るという現実を再認識させる。

 かつて、本コラムでものづくりの本質について取り上げた。ここでその内容をおさらいするとこうだ。。IoT(Internet of Things)や人工知能(AI)などの進化で技術環境がいかに変わろうと、製造業の基本は、お客様が満足する商品を提供することにある。そのためには、「競合に優位に立つこと」と「お客の信頼を勝ち得ること」を両立させる必要がある。これが、技術がいかに進化しようとも普遍的に取り組まなければならない本質的な課題である──。

 今回のテスラEVの品質不具合をこの課題に当てはめてみよう。テスラが施す対策は、腐食しにくいボルトへの交換だ。実はこのことは、設計段階に品質不具合の原因があったことを示唆している。

 設計段階の取り組みは、先行開発段階と量産設計段階の2つで構成される(注:既に幾度か取り上げた通りだ)。では、ボルトの品質不具合の原因は、先行開発段階と量産設計段階のどちらにあったのだろうか。

 先行開発段階における取り組みは、「競合に対して優位に立つ」めどを付けることだ。そして、これに続く量産設計段階は「お客様の信頼を勝ち得る」活動である。

 「競合に対して優位に立つ」とは、競合に勝つ設計目標値を設定し、それを実現する上でネックとなる技術課題にめどを付ける取り組みだ。一方、「お客様の信頼を勝ち得る」活動とは、「100万個造っても1個たりとも不具合を出さない」取り組みのことである。

 ボルトの腐食は、寒冷地で使われる路面凍結防止剤によるとのことだ。一般に、凍結防止剤には塩化カルシウムなどが使われる。塩化カルシウムは塩害を引き起こすストレスを有する。今回の不具合は、このストレスへの設計的な配慮が不十分だったのだろう。

 思い出してほしい。量産設計段階で配慮すべき3つのステップを。まず、[1]製品に加わるストレスを把握すること。続いて、[2]把握したストレスに対して設計的な処置を取ること。そして、最後に[3]設計的な処置の妥当性を評価すること、だった。

 ボルトの不具合を引き起こすような腐食は、この3ステップを確実に行っていれば発生しない。従って、今回の不具合は、この3ステップのうちの1つ、もしくは複数のステップの取り組みに抜けがあったか、もしくは不十分だったのだ。

 ということは、今回の不具合の原因は先行開発段階ではなく、「量産設計段階にあった」と推定できる。量産設計段階における100万個造っても1個たりとも不具合を出さない取り組みに課題があったのだ。すなわち、お客様の信頼を勝ち得る取り組みが不十分だったということになる。

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