ジン・コンサルティング 代表、生産技術コンサルタント西村 仁氏
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 技術者として入社してまず驚いたことが2つあります。1つはパーツフィーダー(部品供給機)です。

 パーツフィーダーは、バラバラに投入した小型部品の姿勢を整えて一方向に送る自動供給装置。振動の原理が分かれば「なるほど」と納得するものの、実際の動きは不可思議で見飽きることがありません。

 もう1つは、新入社員実習で各部署を回った際に検査係の先輩に教えてもらったリンギング現象です。表面をきれいに拭き取った2つのブロックゲージを十字状に合わせてから90°回転させると、ピタッと貼りつく感触があって、手で引っ張っても離れない密着力を持ちます。激しく振っても離れないので、初めて体験すると感動すら覚えます。引き離す際は逆の手順で90°回転させて十字状にすればスッと離れます。

 このリンギング現象が発見されたのは1900年。ラップされたゲージを偶然落とした際に、2つのゲージがくっついたまま離れなかったことから発見されました。この現象は平滑な面であることが条件です。平滑とは高い「平面度」と、鏡面レベルの「表面粗さ」の両方が備わっていなければなりません。いくら平らでも表面が荒れていてはダメですし、表面がピカピカでもうねった面では密着しません。

 さらに不思議なのは、このリンギングが起こる原理はいまだに分かっていないことです。素材が鉄鋼材料だけではなくセラミックスでも生じることや、真空状態でも生じることから「分子間力説」や「大気圧説」、「表面張力説」などいろいろな説があります。接着の原理が今も分かっていないのと同じで、宇宙にロケットを自由に飛ばせる時代に、こうしたシンプルな原理が未解決なことに興味を感じます。

 ちなみにブッロクゲージといえば、長さの「原器」です。ノギスやマイクロメーターから3次元測定器まで、日常点検や校正の際にはこのブロックゲージを直接測ることで計器の誤差を確認します。最高精度の等級品では100mmで±0.3㎛レベルです。このレベルになると温度も大きく影響し、ブロックゲージを3本指で持ったときと5本指で持ったときとで熱膨張による伸びのスピード差は無視できません。

 ブロックゲージが誕生するまでは、寸法ごとに測定ゲージをそろえる必要があったので、週百から数千種が必要とされていました。ここから、より少ない種類のゲージで測定できないかと考えられ、102個のブロックゲージを「組み合わせる」ことで、約2万種の異なる寸法を出すことに成功しました。この組み合わせにリンギング現象が使われているわけです。

 現場の検査室には必ずブロックゲージがありますから、担当者に頼んで、ぜひリンギング現象を体感してみてください。