世界は「第4次産業革命」時代に本格的に突入し、ビジネスを取り巻く環境が激変している。人工知能(AI)をはじめとする新技術を使いこなさなければ、これからのビジネスは難しいという声も上がり始めた。この厳しい環境の中で、多くの日本企業は次の成長を狙って新たな事業戦略を構築する必要に迫られている。「技術者塾 特別編」の「AIの本質を見極めて成功を勝ち取る事業戦略の立て方」(2018年7月5日)に登壇するエルゼビア・ジャパン リサーチマネジメント ソリューションマネージャーの恒吉有紀氏に、事業戦略立案をうまくこなすためのヒントを聞いた。(聞き手は近岡 裕)

日本企業にとって、事業戦略の構築が難しい時代になってきました。担当者は今、どのような悩みや課題を抱えているのでしょうか。

恒吉氏:各企業の担当者は、何としても新しい事業を生み出したいと、人工知能(AI)やオープンイノベーション、社内リソースなどいろいろなものを活用することを考えています。よくあるのが、社内の中から何人かを選んでプロジェクトを立ち上げる方法です。でも、残念ながら具体的に進まないことが少なくありません。多くは何から手を付けて良いか分からず、結局、新規事業のアイデアを見つけられないようです。

 実は、情報は集めているのに、判断するまでに至らない企業が多いのです。「95%くらい確実でなければ判断できない」と考える企業が多いのでしょう。やはり、日本企業の課題は「スピード感」です。実際、海外の競合企業と比べた場合に、スピードが遅くて置いて行かれるケースが多いと言わざるを得ません。それが今、顕在化しつつあります

なぜ、スピードが遅いのでしょう?

恒吉氏:マインドセット(思考様式)の影響が最も大きいと思います。しかし、それ以上にもったいないと感じることがあります。それは、せっかく情報を集めているのに、判断しやすいような情報のまとめ方ができていないことです。

 例えば、データが1万件あるとします。これに対し、多いのか少ないのか、重要なのかそうではないのか、伸びているのかいないのかなど、データの意味や価値を見分けることが難しいのです。ビッグデータがあるというだけではこれらを判断することができません。判断できるところまでデータを見やすくする必要があるのです。

 それなら、AIを使ってビッグデータを分析しようかと考えると思いますが、ここでも問題があります。多くの人が「AIが答えを出してくれる」と勘違いしてしまうことです。答えを判断するのは人間です。例えば、株式でこれを買ったら儲(もう)かるというレベルの答えを現在のAIに期待するのは間違っています。100ある株の中で、多くが注目しているもの、伸びているものを教えてくれるのがAIです。つまり、ツールを使っても、有望な事業という直裁的な答えは出てきません。

せっかくデータがあるのに、それでは“宝の持ち腐れ”です。どうしたらよいでしょうか。

恒吉氏:データを持って来ることはできるけれど、整理はされていないとします。これを人手で分析すると、膨大な時間や相当な慣れを要します。ここに、AIのようなツールを使うと、判断に至るまでの時間を短縮してスピードアップを図ることができるのです。

 しかし、最終的にデータの中から「ノイズ」と「宝」を選別するには人の力が必要です。同じデータでも、A社にはノイズで、B社には宝かもしれない。その判断は人間にしかできません。この場合、A社ではハードルを下げてノイズをクリーンにしたいでしょうし、B社ではノイズが混ざってもよいのでしきい値を上げたいと考えることでしょう。このように、同じデータでも毎回カスタマイズしていく必要があります。ノイズの中から宝を見つけ出すことは、人にしかできないのです。