最近、毎日のように耳にする、AI(人工知能)・機械学習。実際に、どこまで進んでいるのか?建築設計に応用できるのか?この進歩によって、建築設計者は将来不要となるのか?アラップでは、社内で専門教育プログラムを提供し、業務の傍ら個々の課題を調査する機会を設けている。そこで学び得たAIに関する現状と可能性を、事例を用いてファサードエンジニアが紹介する。(菊地 雪代/アラップ)

 建築設計への人工知能(AI)の応用に向けて、様々な期待が高まり、実際すでに各所で実装に向けた取り組みが活発化している。一方で、AIが建築設計に対してどんなことをしてくれるのかというと、よく知られるGoogleやAmazonなどの「AIスピーカー」(音声認識AI)や、「AlphaGo(アルファ碁)」などのゲームAIなどと比較して、まだまだ具体的な活用方法をイメージできる人は少ないのではないだろうか。

 そこで今回は、建築環境の解析にAIを用いた実験的な事例を紹介しながら、具体的にAI・機械学習がどのように活用されるか、今後の建築エンジニアリングにもたらす可能性について展望したい。

今回試作したビル風予測AIの例。インプットしたビル形状に応じて、瞬時に周囲の風速分布を予測する(資料:© Arup)
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データ分析・機械学習の世界に踏み入る

 筆者は2016年8月から約1年間かけて、アラップ社内の専門教育プログラム「Arup University」に参加し、「建築・都市におけるデータ分析(Data Analytics in the Built Environment)」コースを受講した。UCL(ロンドン大学)のビッグデータ研究所とのコラボレーションによるコースで、ビッグデータ解析やAI・機械学習などを含むデータ分析全般についての知識・手法を習得できる。関連業界における活用事例などを基に、建築・都市環境における将来的な活用方法について議論した。

英ロンドン会場でのワークショップの様子(写真:©Arup)
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米サンフランシスコ会場でのワークショップの様子(写真:©Arup)
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 通常業務の傍ら、1週間×年2回のワークショップに参加。受講期間全体を通してグループ課題や個人課題に取り組んだ。普段の建築設計エンジニアリング業務ではなかなか触れることの難しい分野に取り組める貴重な機会だった。

 ワークショップには、各国のアラップに所属するエンジニアたちと、社内外から講師としてデータ分析のエキスパートが集う。彼らとの議論では、ある共通認識ができた。現在後れを取っていると言われる建築業界でも、設計プロセスの自動化、データの収集、そしてデータ分析とAI・機械学習による生産性向上が今後よりホットなテーマになってくることは間違いない――ということである。

 特に印象的だったのは、成長著しいテック企業が集うサンフランシスコで開かれたワークショップでのこと。矢継ぎ早に紹介される先進的な事例に続いて、車やバイクなどの3次元形状に対する気流解析も、AIを使えば瞬時に高い精度で予測可能になりつつあると言われたときだ。建築の設計・エンジニアリングにおいてAIをどう応用できるのか、それまでいまひとつ実感できなかったイメージのヒントが得られた瞬間だった。