第一次産業の中でもITの活用が遅れていた養鶏業に、NECとソフトバンクグループが相次ぎ参入した。AI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)を駆使して養鶏を支援する「チキンテック」の新たな市場創出に挑む。

 ソフトバンクグループでITサービスを手掛けるPSソリューションズは2018年5月28日、飼料メーカーの伊藤忠飼料、機械メーカーのCKDと共同で、IoTを活用して鶏舎内の環境を管理できるサービスを今秋から始めると発表した。NECは同日、鹿児島県の養鶏専門農協であるマルイ農業協同組合と組んで、ケージ内の鶏の死骸をAIの画像判別技術で検知し、回収作業を効率化する装置を開発したことを明らかにした。

養鶏の労働環境をITで改善する

 両社が相次ぎ「チキンテック」に参入した背景には、健康志向などで鶏の需要が高まる一方、養鶏業の人手不足が深刻化していることがある。

 農林水産省によれば国内における鶏の飼養羽数は、採卵鶏(レイヤー)と肉用種(ブロイラー)を合わせて2017年度時点で3億1000万羽以上にのぼる。牛肉などと比べて安価なことに加え、脂肪分の少なさで健康志向の消費者の支持を集めた結果、2012年以降国内の食肉消費は鶏肉が豚肉を抜いて1位となった。卵の消費量は1人当たり年間約330個で世界トップクラス。日本人の鶏好きが伺える。

 その一方、養鶏農家は従事者の高齢化に加えて、「新しい人が入ってこない」(複数の養鶏農家)問題を抱える。実際、鶏の消費増に合わせて国産鶏の生産量が増える反面、養鶏業を営む農家の戸数は毎年減っている。

レイヤー(採卵鶏)およびブロイラーの飼養戸数と飼養羽数の推移
(出所:農林水産省 畜産統計(平成 29 年2月1日現在))
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 養鶏業界はこれまで、機械の導入などで採餌から出荷までのプロセスを自動化することで生産性を高めてきた。しかし、増加する国産鶏の需要と担い手の減少が重なり、1戸当たりの飼養羽数は毎年増え続けている。マルイ農協の野中拓也情報システム部システム企画開発課主任は「養鶏農家1人当たりが飼育できる鶏の数は限界に近づいてきている」と現状を説明する。

 人手不足の問題を解消するには、1人当たりの生産性を高める視点に加え、養鶏業の労働環境を改善し、新しい人に入ってきてもらえるようにする必要がある。IT企業による「チキンテック」への参入が相次ぐ背景には、ITが養鶏の労働環境を改善する切り札になり得るとの期待がある。

スマホで鶏舎の環境を24時間チェック

 ソフトバンクグループのPSソリューションズと伊藤忠飼料、CKDが今秋から始めるのは、ITの導入が進んでいなかった自然換気式のブロイラー用鶏舎を対象に、IoTで鶏舎の環境を管理するサービスだ。全国に約7000あるとされる自然換気式の鶏舎を対象に、まずは今後3年間で1割への導入を目指す。

 鶏舎内に置いたセンサー「e-kakashi」で温度や湿度、空気の成分といったデータをクラウド上へ集積する。鶏舎から離れてもスマートフォンなどのモバイル端末で中の状況を24時間365日確認できるようになる。環境が急激に変化した際にはメールなどでアラートを送る。空調を管理するカーテンの手動巻き上げ機を、ネット経由で制御できるIoTモーターに交換すれば、モバイル端末で遠隔から開閉が可能となる。こまめに鶏舎の環境を確認したり、換気や温度調整のためにカーテンを手動で開閉したりする作業の負担を減らせる。

IoTを活用した鶏舎管理サービスのイメージ図
(出所:PSソリューションズ)
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 一般に鶏舎は、臭気などを考慮して人里から離れた場所に建てることが多い。管理者の住居が鶏舎から離れた場所にある場合、急激に天気が変わったときなどにすぐ対応できない問題があった。将来的にはセンサーで取得したデータをもとに自動でカーテンを開閉するなどの自動管理機能を付けるという。

IoTでつながる機器(右からセンサー「e-kakashi」、カーテン開閉用のモーター、それらと連動するモバイル端末)
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 このほか、モバイル端末を使って作業内容や鶏の体重、死んだ鶏の羽数といった飼養成績を記録する機能も備える。IoTセンサーで収集した鶏舎のデータと組み合わせてAIで分析することで、これまで勘や経験に基づいていた飼養技術や知見を見える化できるという。鶏はささいな環境の変化で死んでしまうこともあるため、データを活用してきめ細やかな管理を実現する。

「e-kakashi」を鶏舎内に設置した様子
(出所:PSソリューションズ)
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