スーパーコンピュータ「京」を運用する理化学研究所 計算科学研究センター(旧称:計算科学研究機構)のセンター長に、東京工業大学 教授の松岡聡氏が2018年4月1日付で就任した。

理化学研究所 計算科学研究センターの松岡聡センター長
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 松岡氏は東京工業大学でスパコン「TSUBAMEシリーズ」の開発を主導したことで知られる。ゲームの3次元画像を描写するGPU(グラフィックス処理プロセッサ)をスパコンにいち早く取り入れるなど、低コストかつ使いやすいマシンを志向してきた業界の第一人者が、国家主導のスパコン開発プロジェクトを率いる。

 東工大の研究室は維持しつつ、8割の時間をセンター長としての業務に振り向ける。京の後継となるポスト「京」の開発を、石川裕プロジェクトリーダーと共に推進する。

 ポスト京の設置準備のため、現行機の京は2019年4月以降に運用を停止し、撤去作業が始まる予定。開発中のポスト京は2018年秋の中間評価を経て、2019年から製造(量産)、2020年に設置、2021年前半の一般利用開始を目指す。

 ポスト京の総事業費は1300億円、うち国費1100億を投じる。複数の用途で京と比べ最大100倍のアプリケーション実行性能を目指す。

 以前から外部の有識者としてポスト京の設計に関わってきた松岡氏。同氏が語るポスト京の開発方針は、以下のとおり。

ポスト京は現行機の京と何が異なるのか。

 まずプロセッサのアーキテクチャーをSPARCからArmに変更したことが大きい。ポスト京の成功に向けた大きな一歩になる。ハードウエアはソフトウエアのエコシステムがあってこそ機能する。独自技術で固めたチップで「世界最速」とうたっても意味がない。

 私は以前から、スパコンのプロセッサを独自開発するなら「Armしかない」と主張してきた。Armの採用に至るまでに様々な駆け引きがあったが、もしSPARCを引き続き採用していたら、プロジェクト成功の見込みはなくなっていた。

 理研と富士通が設計しているポスト京のプロセッサは、優れたものに仕上がりつつある。他の汎用プロセッサより性能面で優位に立てる見込みだ。かつての京のプロセッサは、(Xeonなど)同じ世代の汎用プロセッサと比べて性能面で大きな違いはなかった。

ポスト「京」のハードウエア構成。プロセッサ1個が48コア+2/4コアを搭載する
(出所:理化学研究所 www.hpci-office.jp/pages/seminar_180124)
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 ポスト京のプロセッサは、メモリーバンド幅(メモリーとプロセッサ間のデータ伝送速度)の大きさに重点を置いて設計している。スパコン全体の総メモリーバンド幅も大きくなる。いわばGPUが大量に並んでいるイメージだ。

なぜ総メモリーバンド幅に注目するのか。

 現在の科学技術計算のアプリケーションは、メモリーバンド幅の大きさが実行演算性能を決めているためだ。TOP500ランキングの指標であるLINPACKベンチマークは、この点で適した指標とは言えない。

 京は汎用プロセッサを大量に並べた結果、総メモリーバンド幅が大きなマシンになった。京は2017年11月まで、(総メモリーバンド幅が重要になる)HPCGベンチマークで3期連続で世界首位を獲得している。京の登場から7年近くにわたり、総メモリーバンド幅で京を大幅に超えるマシンが現れなかったといえる。中国の天河二号(Tianhe-2)は理論上のバンド幅が京の約2倍だったが、期待通りの性能が出なかった。

 総メモリーバンド幅で京を大幅に凌駕する初めてのスパコンは、2018年に稼働予定の米オークリッジ国立研究所の「Summit」になるだろう。総バンド幅が京の数倍になり、アプリケーション実行性能では圧倒的な世界一になる見通しだ。

どうやってメモリーバンド幅を大きくするのか。

 DRAMそのものは誰もが使える標準技術であり、差異化できない。プロセッサとDRAMを近接させるオンパッケージメモリーを使うなど、実装面で工夫する。

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